◆市街地エリア・
インフォメーションセンター
原倫太郎+原游「はじまりの庭」

 電車で訪れるなら、起点となるのがJR信濃大町駅だ。電車をおりたら、まずは駅前のインフォメーションに立ち寄りたい。

東京からは長野駅または松本駅で乗り換える。

 インフォメーションセンターも作品の舞台となる。原倫太郎+原游のユニットが生み出したのは、北アルプスのモチーフや動物がちりばめられた空間。旅の始まりにふさわしい、わくわくした気分にさせてくれる作品を鑑賞できる。

左:左が原倫太郎、右が原游。
右:インフォメーションカウンターで作品鑑賞パスポートの販売もおこなっている。

◆市街地エリア・大町名店街ほか
ジミー・リャオ
「私は大町で一冊の本に出逢った」

 市街地エリアは、JR信濃大町駅から北西に伸びる中央通り商店街を中心とするエリア。ここでは、商店街や空き店舗などを舞台としたアート作品が展開される。

 駅から歩いて5分ほどで右側に見えてくる「大町名店街」の先には、台湾の絵本作家ジミー・リャオが考案した小さな書店が出現する。

完成するとこのような感じに。
書店となるのは共同作業所「がんばりやさん」。

 信濃大町の商店街を歩いていると、誰もが自由に持って行ける本が詰まった、「街中図書館」と書かれた箱がたくさんあることに気づく。最初は商店街の家具屋さんがはじめたが、その試みが共感を呼んで、今では商店街のいたるところに箱が置かれているのだ。

 純文学から歴史小説、資格試験の参考書まで、不要になった本を市民が入れて、読みたい人が読む。商店街では当たり前のこの風景を見て感銘を受けたジミーが、思いがけない本との出合いをテーマにする書店を生んだ。本が好きな人はもちろん、本のある生活から遠ざかっている人も楽しめる仕掛けが満載だ。
 

歩いているだけで思わぬ名著に出合えるかもしれない。

◆市街地エリア・大町名店街
淺井裕介「全ては美しく繋がり還る」

 商店街の歴史が華やかに発展したのは、昭和の高度経済成長期。富山県と長野県のほぼ県境に世界でも最大クラスの黒部ダムが建設され、長野県側の玄関口となったのが大町だった。

 そんな昭和の趣を色濃く残す「大町名店街」を歩いていると、通りに素敵な絵が描かれていることに気づくだろう。

左:昭和レトロな雰囲気がたっぷりのアーケード。
右:2014年のアートイベントで淺井裕介が制作した「全ては美しく繋がり還る」。

 これは3年前のアートイベント「信濃大町2014 ― 食とアートの廻廊 ―」で制作・展示された作品だ。「水と植物」をテーマにしたもので、いまでは大町名店街の風景にすっかり溶け込んでいる。

 そして、市街地エリアを散策するときには、ぜひ街の音に耳を澄ませてほしい。どこからか、水が流れる音が聞こえてくるはずだ。街じゅういたるところに北アルプスからの雪解け水をたたえた水路が流れ、ときに家屋の床下を走っている。信濃大町の暮らしが、清流に密着していることを感じられるだろう。

「トレビの泉」の「ビ」の濁点は♡マーク。

 信濃大町の地理的な面白さを感じられる、この街の風景にも注目だ。

大通りの左右に分かれて設置されている、「男清水」と「女清水」。そののちがいとは?

 JR信濃大町駅から北西に伸びる大通り沿いにある、「男清水」「女清水」と書かれた蛇口。設置された蛇口をひねると、水を飲むことができる。信濃大町で飲用にされる水の水源は四方の山々からの豊富な湧水だ。この大通りの西側と東側で、水系が異なるのだという。西側がアルプス系の「男清水」、東側が居谷里の湧水で「女清水」。コップも用意されているから、市街地散策で渇いた喉を潤すなら、ぜひ飲み比べを。

 今回は視察のための特別ツアーだったので、信濃大町までバスで直行したが、一般的には新宿駅から中央本線を利用し松本駅で大糸線に乗り換え、信濃大町駅に向かう。または、東京駅から北陸新幹線で長野駅まで出て、バスやレンタカーを利用し、信濃大町に向かうという方法もある。

 現地では芸術祭の期間中毎日、シャトルバス(1日券1,000円)も運行しているので、利用すると効率よく作品を見てまわれそうだ。

 次回は「仁科三湖エリア」「ダムエリア」「源流エリア」の見どころを紹介する。

『北アルプス国際芸術祭2017』
~信濃大町 食とアートの廻廊~

期間 2017年6月4日(日)~7月30日(日)
料金 作品鑑賞パスポート 2,500円(高校生は1,500円、小中学生は500円)
※6月3日(土)までの購入なら2,000円(高校生は1,000円、小中学生は300円)
http://shinano-omachi.jp/

2017.05.27(土)
文・撮影=CREA WEB編集室