2017年6月4日(日)、「北アルプス国際芸術祭2017~信濃大町 食とアートの廻廊~」が長野県大町市でスタートする。そこで5月半ば、作品の完成に向けて最後の仕上げにとりかかる作家たちを訪ねた。今回の芸術祭の見どころを、作家の声とともにお届けする。

 5月某日(薄曇り)、朝7:00に新宿駅からバスに乗り一路、信濃大町へ向かった。4月のはじめに一面ピンク色に染まった桜並木は、美しい新緑の道へと趣を変え、ときに汗ばむ日もある。5月半ばの東京は確実に、夏へのカウントダウンが始まっていた。

 そして午前11:00、信濃大町に到着し、出会ったのがこの景色だ。

向こうに北アルプス、手前に扇状に広がる大地。今回の「北アルプス国際芸術祭」を象徴する景色のひとつだ。

 3000メートル級の、北アルプス連山の頂はまだ白い。これから6月半ばにかけて、少しずつ雪が解けていくのだという。この地では、徐々に小さくなっていく残雪の形で、夏の訪れを知る。田植えの日取りも、頂の白い模様の変化が教えてくれる。ここにあるのは、自然と一体となった人々の暮らしだ。

大町山岳博物館前の広場は信濃大町を見渡す絶景スポット。

 今年初開催となる北アルプス国際芸術祭を率いるのは、新潟県で2000年にスタートした「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の総合ディレクター北川フラム。

「信濃大町の地理的特徴はフォッサマグナにある」と北川フラム。

 「圧倒的な北アルプスの存在感、そこから流れる清らかで豊富な水、そして山々の上に広がる空。この地の暮らしには、いたるところに“山”の気配がある。この、ここにしかない暮らしとここに流れる空気を作家たちがどう表現し、作品として完成させたのか、それを感じに来てほしい」と言う。

 芸術祭は、長野県大町市の「東山エリア」「市街地エリア」「仁科三湖エリア」「ダムエリア」「源流エリア」の、5つの地域で展開する。市内に点在する大町温泉郷、葛温泉、木崎湖温泉といった温泉地に宿をとり、1泊2日でのんびりと作品をめぐるのがいいだろう。

 まずは、起点となるJR信濃大町駅をはさんで、北アルプスの反対側に位置する「東山エリア」の作品の一部を紹介する。

◆東山エリア・鷹狩山
目「信濃大町実景舎」

 東山エリアは北アルプスの山々とは逆の位置の、東側にあるエリア。市街地を眼下に、北アルプスを正面にしたダイナミックな景観を望む鷹狩山と、山と谷が入り組む八坂・美麻地区が作品の舞台となる。

 最初に紹介するのは、クリエイティブチーム「目」による作品。

大胆な仕掛けで作品を創りあげるクリエイティブチーム「目」が注目したのは、鷹狩山山頂からの信濃大町の景色。

 「目の前にある景色は、圧倒的な物体としてそこに存在する。ひとつの“目”を通して信濃大町のパノラマを見たときに、遠くにいるのにまるで景色が迫って来るかのような……作品を通して、そんな体験をしてもらいたい」と南川憲二。

クリエイティブチーム目の作家、左から、南川憲二と荒神明香。

 作品は、緩やかなカーブを描く白い空間で、突然、信濃大町の景色に出合う仕掛けになるという。その不思議な空間に身を置いて信濃大町の風景を眺めると、自分がただの傍観者ではないことに気付くのかもしれない。

2017.05.27(土)
文・撮影=CREA WEB編集室