コンサル会社が殺人事件を呼び寄せる?

左:「温泉若おかみの殺人推理」で若女将を演じる東ちづる。
右:同じく大女将を演じる岡田茉莉子。

 まずは「土曜ワイド劇場」から。

 「温泉若おかみの殺人推理」は、東ちづるが主演する長寿シリーズ。

 が、実は東さんがヒロインとなったのは1996年の第4作からで、94年の第1作から3本目までは大島智子(現・さと子)が主演だったことは意外と知られていない。たぶん、「タケちゃんマン」のブラックデビル役を第3話まで演じていたのが高田純次だった事実と同じぐらい知られていないだろう。

 このシリーズにおいては、毎回、別の温泉地が舞台となり、東さんはそれぞれ違う宿の違う名前の若女将を演じている。これまでのロケ地は、飯坂、登別、下呂、別府、定山渓など。

 せっかく大女将として岡田茉莉子がレギュラー出演しているのだから、彼女の代表作のひとつである映画『秋津温泉』(監督は夫の吉田喜重)のモデルとなった岡山県の奥津温泉も取り上げれば気が利いてるのにな、などと思う。

「温泉(秘)大作戦」の現時点での最新作は、2016年に放映された「世界自然遺産・知床半島! オホーツクに沈む夕陽天に続く道、大自然の秘湯!! 地の崖に逃げた女と謎の美少女、ワケあり同級生を巻き込んだ連続殺人事件の驚愕の真実!?」。

 「温泉(秘)大作戦」は、森口瑤子主演のシリーズ。(秘)はマルの中に秘の字が入るのだが、環境依存文字のためこういう表記にしてあります。ちょっと間抜けだがすみません。

 ヒロイン・星野さつきは、城ノ内コンサルティングという会社に務めるホテル経営のスペシャリスト。廃業のピンチに陥った各地の温泉旅館を再建するため、同社はさまざまな宿へと勇躍乗り込むが、そこでは必ず殺人事件が勃発する……。

「水戸黄門」では助さんを演じていた東幹久。全国を漫遊して悪をくじいたり、料理のコンサルティングをしたり、なかなか忙しいことである。

 このシリーズ、東幹久が料理専門のコンサルタントに扮して出演していることからも分かる通り、美食への目配りがなされている。それは、各回のサブタイトルからも明白だ。

 例えば、第6作は「旬を喰らう真夏の伊勢志摩! アワビの踊り食い 海女さん料理に夏野菜 真珠をめぐる謎の連続殺人事件!」、第7作は「秘境の一軒宿と合掌造り 氷見の寒ブリ食べつくし! 連続殺人に巻き込まれた師弟愛の悲劇!」第17作は「香川うどん県こんぴら温泉! 瀬戸内海の孤島に甦る哀しみの兄妹伝説!? 掘り起こされた頭蓋骨と復讐鬼の父子殺人! 届かない母への愛と真心の郷土料理」。威勢よく叫べばいいってもんじゃないが、とにかく大変な事態であることは伝わってくる。

 第5作の「仕掛人vsホテル買収人 山口県長門温泉郷をめぐる謎の連続殺人! 下関のトラフグと日本海仙崎イカの究極料理!」、第9作の「美人女将とパパラッチ!? 早春の気仙沼を巡る連続殺人! 盗撮に秘められた驚愕の真実!! 究極のカキとフカヒレ三昧!」あたりになると、殺人や盗撮といった犯罪について大袈裟に啖呵を切った後にとってつけたように料理が登場するので、何というか落差が半端ではない。

 ちなみに、筆者が最も気に入ったサブタイトルは、第16作の「鹿児島県指宿の天然砂蒸し温泉! 7年熟成された鰹節でとる究極の出汁 20年間の怨讐を秘めた薩摩切子! 殺人事件に翻弄された美人若女将の後継奮闘記!!」。“7年熟成された鰹節でとる”という部分がやけに説明的でスタティックなところがたまらなくおかしい。

2時間ドラマの女王・片平なぎさは、ロケで訪れた全国各地を紹介する『片平なぎさの全国ゴールデンワイド旅劇場』という著書も上梓している。

 「湯けむり受胎旅行連続殺人」は、95年から98年まで、全4作が放送されたシリーズ。子宝に恵まれぬ片平なぎさと松村雄基の夫婦が、子作りのために温泉地を旅行すると例によってそこでは必ず殺人事件が起こるという筋書きである。

 最初の2作にはまだ「湯けむり~」というシリーズ名が冠されておらず、旅先も温泉ではなくオーストラリアだったりするのだが、そんな細かい情報は必要ないという読者が9割5分であろう。

 受胎旅行といえば、CREA2月号の特集「楽しいひとり温泉」を担当した副編集長は四万温泉に泊まったら赤ん坊を授かったということで、事あるごとに四万温泉をすすめてくるのだが、こっちの方がよっぽど有益な情報だろうか。

2017.02.02(木)
文・撮影=ヤング
写真=文藝春秋、共同通信