初めて作ってもらった「居場所」
西川 まず私が是枝監督の助監督を抜けて少ししてから、砂田さんが助手で入ったんですね。どの作品だっけ?
砂田 『歩いても、歩いても』からですね。
西川 私のあとに別の助監督も挟んでいたし、そんなに接点がなかったんですね。ごくたまに現場や、是枝監督の事務所に行ったときに顔を合わせて、「あ、砂田さん」っていうくらいで。
砂田 私も恐れ多くて、話しかけられなかったんです。
西川 「分福」が出来てから、というか、砂田さんが監督をすることになってからですね。少し近づいたのは。『エンディングノート』を撮る前に、私に音楽のことで相談したいって言ってきたときです。「ハナレグミにやってほしいけど、どう思うか?」って。そこで、「やってみなよ、やってみなよ」って。
砂田 でも、西川さんは分福という場所が出来てから、ものすごく変わられましたよね。これは『永い言い訳』にも通じてるんですが。
西川 なんで?
砂田 それまではいつも忙しそうだし、凛としているから、あんまりグダグダ話しかけちゃいけない、っていう印象があったんです。冷たいわけじゃないんだけど。それが、分福という場所が出来て常に会うようになってから、徐々に変わって。西川さん自身も、後輩への接し方が変わりました?
西川 基本的に私は縦の関係っていうのがないんですよ。部下がいたことがないし、監督になってみると、助監督というのは違う仕事のプロで、縦の関係じゃないんですね。どんなに若い人でも対等なんです。だから、この場所(分福)が出来るまでは、後輩といえる人は存在しなかった。たった一人で書いて、演出して、終わり、なので。監督にはそばに誰かいた方がいいというタイプと、いなくていい、というタイプがいて、私は後者だったんです。フリーランスだから自分が倒れたらおしまい。根なし草だったんですね。でも、是枝さんが分福を作ってくださってから、ここの若いスタッフたちから1人、私のプロジェクトに入ってもらったりするようになったので、初めて後輩のような存在が出来たんです。居場所を作ってもらったという、物理的な問題が大きいですね。それまではファミレスで仕事をしていたので。
砂田 分福が出来たことで西川さんとの関係性が変わってきて、時には弱みも見せてくれるようになって。そういう個人的な変化を感じていた延長線上で『永い言い訳』を観たので、こうやって映画の作り手というのは時間とともにいろんなことが変わっていくんだな、と思いましたね。
西川 この人、私に恋愛のHow To 本を薦めてくるんですよ。
砂田 ダメー、それは言っちゃ!(笑)。いきなりは薦めないですよ。前振りがあったからじゃないですか。
西川 そこまで、そこまで! まあ、それくらいの関係性にはなったというわけです(笑)。
砂田 アマゾンで調べてたじゃないですか。
西川 調べただけで、買ってはいないよ(笑)。でも、ここは、ゆるやかにつながっている場所、という感じですね。製作会社ではないので。
――分福は、フィルムメーカーズ集団という感じですか?
西川 かっこよく言えば、そうなのかな。2年半前にここが出来てからは、お互いの気配は感じられるというか。
砂田 今は誰かに「西川さんは今、どうしてるんですか?」って聞けば、動向がわかりますもんね。
西川 私が砂田のことを聞くほうが多いけどね(笑)。
砂田 そう、うちに引きこもってるから(笑)。
どこまでも対照的なふたり。そんなふたりの大きな共通点が、映画と小説。その魅力や関係について次回はお話を聞いていこう。
西川美和(にしかわ・みわ)
1974年、広島県出身。早稲田大学在学中に是枝裕和監督作『ワンダフルライフ』(1999)にスタッフとして参加。フリーランスの助監督として活動後、『蛇イチゴ』(2002)でオリジナル脚本・監督デビュー。長編2作目となる『ゆれる』で第59回カンヌ映画祭監督週間に出品、第58回読売文学賞戯曲・シナリオ賞ほか数々の賞を受賞。撮影後に初の小説『ゆれる』(ポプラ社/文春文庫)を上梓。映画作品に『ディア・ドクター』(2009)『夢売るふたり』(2012)、小説作品に『きのうの神さま』(ポプラ社)『その日東京駅五時二十五分発』(新潮社)『永い言い訳』(文藝春秋)など。2016年10月14日(金)より最新映画『永い言い訳』が全国公開。
砂田麻美(すなだ・まみ)
1978年、東京都出身。初監督作品のドキュメンタリー映画『エンディングノート』(2011)で日本映画監督協会新人賞を受賞。2作目となる『夢と狂気の王国』(2013)では『風立ちぬ』制作中のスタジオジブリに1年間密着。監督業と並行して小説『音のない花火』『一瞬の雲の切れ間に』(ともにポプラ社)を上梓。『一瞬の雲の切れ間に』は、“「本の雑誌」が選ぶ2016年上半期ベスト1”に選ばれた。
『永い言い訳』
人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(本木雅弘)は、妻・夏子(深津絵里)が旅先で不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなったと知らせを受ける。その時不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。そんなある日、妻の親友の遺族――トラック運転手の夫・陽一(竹原ピストル)とその子供たちに出会った幸夫は、ふとした思い付きから幼い彼らの世話を買って出る。子供を持たない幸夫は、誰かのために生きる幸せを初めて知り、虚しかった毎日が輝き出すのだが……。
(C)2016「永い言い訳」製作委員会
アスミック・エース配給
2016年10月14日(金)より全国ロードショー
http://nagai-iiwake.com/
西川美和×砂田麻美
注目の女性監督が語り合う
2016.10.07(金)
文=石津文子
撮影=志水 隆
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