神に捧げる労働により生まれるワイン

 島の修道士たちは、「労働を神に捧げる」という信念のもと、ブドウ、オリーブ、ハーブなどを栽培しています。中でもブドウは最も重要な作物で、これらがワイン造りにつながっています。

 8ヘクタールの畑で作られるブドウは全部で6品種。黒ブドウはシラー、ピノ・ノワール、ムールヴェードルの3種類で、白ブドウはシャルドネ、ヴィオニエ、クレレット。これらを用いて7種類のワインを造っています。

 修道士にとってブドウ畑での作業は神への祈りと同じ。祈りの時間と睡眠、食事以外の時間はすべて労働に充てられます。

ブドウ畑を通り抜ける道沿いの、樹齢400年以上にもなるオリーブの木。いかにも南フランスといった風景です。

 ブドウ畑が広がるのは島の中央部。ここで有機栽培されるブドウからは、毎年約4000本のワインが造られています。以前は儀式のためだけに造られていましたが、現在では、我々のように修道院を訪れる人などのためにも生産されるように。

黒ブドウのシラーの畑。

 今回テイスティングしたワインの中で最も印象に残ったのは、「アベイ・ド・レランス キュヴェ・サン・ソヴール」(※サン・ソヴールは救世主の意)という名の赤ワイン。サミュエルさんも「古樹のシラー100%で造られるこのワインは、本当に美味しいんですよ!」と満面の笑み。

 黒く濃いガーネット色で、香りにはプラムやシナモンなどのスパイス、さらにはスミレの香りも。タンニン(渋み)がしっかりありながら上品で重すぎず、シラー本来のピュアな味わいを楽しむことができます。

左:「救世主」という名を与えられた修道院の赤ワイン「アベイ・ド・レランス キュヴェ・サン・ソヴール」。
右:クラレットやシャルドネから造られる白ワインもフルーティで美味しい。

 このシラーというブドウ品種は、南フランスで多く造られています。通常、太陽の恵みをいっぱい受けたシラーは、アルコール分が高くタンニンが豊富な、しっかりしたワインになります。ですが、サントノラ島のそれは少し違う印象でした。その理由をサミュエルさんにたずねてみたところ、こんな答えが。

「ここは一年を通じて暖かい地中海気候ではあるけれど、島を取り囲む海からは冷たい風が吹き込むので、南フランスで栽培されるシラーよりも丸みのある味わいになるんですよ」

 海から吹く冷たい風。なるほど、冷涼な気候を好み、南フランスではあまり栽培されないピノ・ノワール種が、この島で栽培されている訳も、この一言で合点がいきました。

 さらに、海から吹きつける潮風がブドウ畑の通気をよくし、ブドウの木々を病気から守る役割も果たすとのこと。海からの風は、この島のワイン造りに欠かせない「神から与えられたギフト」というわけです。

2016.09.18(日)
文・撮影=須藤みほこ