地中海で「美の島」と呼ばれるコルシカ島と、カンヌ沖合に浮かぶレランス諸島の小島サントノラ島。フランスのワインでありながら、表舞台にはあまり登場することがないこれらのワインの産地を、食とともに訪ねます。

繊細なワイン造りが信条の当主、新しいオリジナルを求めて

現当主のジェラール・クレージュさん(左)と、父のアラン・クレージュさん(右)。

 ナポレオンの生まれた島として名を知られる、地中海に浮かぶコルシカ島のワインを巡る旅。前回に引き続き、もう一軒、コルシカならではの魅力にあふれるワイナリーをご案内しましょう。

草花の多い自然豊かなワイナリー、Domaine de VACCELLI(ドメーヌ・ド・ヴァッチェリ)。

 アジャクシオ市内から車で1時間強の場所にある、1961年に創立したドメーヌ・ド・ヴァッチェリ。若き3代目当主ジェラール・クレージュさんは、コルシカのバスティアと、フランス南部コート・デュ・ローヌ地方のニームでワイン造りを学びました。

「良いブルゴーニュが好きなら、僕が造るワインを好きになるはず」と語るジェラールさん。ブドウ畑の見学中も、テイスティング中も、彼の口から発せられるのは「繊細」という言葉でした。

 たとえばブドウが育つ区画ごとに熟成させる樽の種類を変えるなど、細やかな気配りによって最高のワインをめざします。

 「コルシカのワインは知名度がまだまだ低いので、飲んでもらえる機会が圧倒的に少ない。だから一口飲んだ瞬間に“おいしい”と感じて、“また飲みたい”と思ってもらいたいんだ」と。

 まさにワインとの出会いは一期一会。繊細で上質なワインを求めて情熱を注ぐ理由がここにあるようです。

見晴らしがよく、草や花に囲まれたドメーヌ・ド・ヴァッチェリの畑。

 さて、コルシカを代表する白ワイン用ブドウ品種といえば「ヴェルメンティーノ」。こちらを使った「ヴァッチェリ」をご紹介しましょう。スッキリとした辛口で、フレッシュなハーブの香りが特徴です。そして、もうひとつ忘れてならないのが「Maquis(マキ)」の香り。マキは特定の植物のことを指すのではなく、コルシカ島特有の灌木密生地帯で育つ植物の総称です。

 ワインの用語に「テロワール」という言葉があります。平均気温、日照量、降水量、土壌、吹く風まで、そのワインの個性を決める自然環境のファクターを総合した言葉です。マキは、まさにコルシカ独特のテロワールです。

こちらが「ヴァッチェリ」。ブドウは有機栽培。

 少々余談ですが、こちらのワイナリーで印象的だったのは、カーヴにアート作品が飾られていたこと! これはジェラールさんの父である2代目当主、アランさんの手によるものなのだとか。「ワイン造りに大事なことは、もうすべて息子に任せているよ。僕は何かを造ることが好きだから、今は彫刻をしたりして、アートも楽しんでいるんだ」と笑います。

 日々繊細なワイン造りに情熱を傾ける当主と、好きなことを続けながらそれを見守る父。そんな親子の絆を感じることができるのも、家族経営の小さなワイナリーを巡る楽しみのひとつかもしれません。

「ワインとアートは、より良いオリジナルを造るという意味で似ている」とアランさん。
左:木樽で熟成中の白ワイン。右奥に人影のように見えるのはアランさんの作品。
右:こちらもアランさんの手による木彫りのバッカス(ギリシア神話の酒神)。カーヴ内にはほかにもアランさんの作品が。

2016.08.11(木)
文・撮影=須藤みほこ