ハイテク機が増え、ヒューマンエラーによる重大事故が減った

 そこで、今度は民間航空機の事故による、年間死亡者数の推移のグラフをみてみます。

出典元:indy100 from INDEPENDENT

 このグラフをみると、戦後、1960年代から1990年代半ばにかけてピークをむかえ、その後減少傾向にあることが読みとれます。これには1960年代以降、航空機が大型化し、1回の事故あたりの犠牲者数が増えたことも影響していると考えられます。それは次のグラフからも読みとれます。

出典元:SKIFT

 しかし、こうした確率を考えるうえで分母となる、民間航空の利用者数の変化についても見てみなければなりません。

 下のグラフの青い線が、1970年以降の利用客数の推移です。これをみると、1996年から2012年にかけて、飛行機を利用する人の数がほぼ2倍になったことがわかります。それにもかかわらず死亡事故はほぼ3分の1に減っている。つまり、確率としてはほぼ6分の1に減少したことを意味しています。

出典元:The Economist

 航空機の事故が減った原因の一つとして、ハイテク機が増え、ヒューマンエラーによる重大事故が減ったことが挙げられます。

 これまでとりあげたデータからも分かるように、飛行機の安全性はきわめて高く、また、その安全性は近年かつてないほどに高まっています。

 それにもかかわらず、人は飛行機を必要以上におそれることがあります。たとえば2001年9月11日のテロの後、アメリカでは、飛行機に乗ることをおそれ、自動車で長距離を移動する人が増えました。

 その結果、2001年10月から12月にかけて、自動車事故での犠牲者は前年比で約1000人増加したそうです。

 いったん航空事故になれば、一度に多くの人命が損なわれます。しかし、自分ひとりにふりかかるリスクという意味では、自分ひとりだけが犠牲になろうが、同時に多くの人が犠牲になろうが等価です。本当に安全な選択肢は何なのか、メディアなどによるバイアスを受けることなく、冷静に判断したいものです。

「Aviation Safety Network」世界中の民間航空機の航空事故について、さまざまなデータが集められているサイト。

Aviation Safety Network
URL https://aviation-safety.net/

Airline Safety Ranking 2016
URL http://www.jacdec.de/airline-safety-ranking-2016/

橋賀秀紀(はしが ひでき)
トラべルジャーナリスト。筑波学院大学非常勤講師。東京都生まれ。著書は『エアライン戦争』(宝島社)など。海外渡航歴は200回以上。執筆、講演の依頼、内容の問い合わせは、CREA WEB編集室まで。

 

Column

プロがこっそり教える賢い海外旅行術

海外渡航歴は200回以上。安くて賢い旅行術を語らせたら第一人者のトラベルジャーナリストがこっそりCREA WEB読者にだけ教える海外旅行術。これを身につけたら、毎月でも海外旅行に行けちゃいます!

2016.08.15(月)
文=橋賀秀紀