鳥や虫、カエルの鳴き声と
遠く聞こえる川の音に囲まれながらいただく

鯉のクネルとザリガニのアメリケーヌソース。

 そして佐久ならではの料理、「鯉のクネルとザリガニのアメリケーヌソース」である。クネルは魚のすり身団子というべき、フランス中西部でよく作られる料理だが、そこにやはり近隣で捕られたというザリガニを使った、うま味が深いアメリケーヌソースが加わる。

 鯉の淡い甘みに濃厚なソースのコクがからみ、なんとも優しい気分を呼ぶ料理である。

名物の「山菜ずし」。

 お次は「さんざ」の名物の一つ、「山菜ずし」。もみじかさ、行者ニンニク、わらびが寿司種として乗っている。三者三様の香りとエグミがあって、楽しい。

 魚料理は、近所の高校生の兄弟が獲ってきたという「岩魚のムニエル」。新鮮な岩魚を料理したからこそ生まれる、温かみのある甘さが、バターの香りと溶け合った、東京では得られない美味しさがある。

 肉料理は「蓼科オレイン豚ヒレ肉のポワレ」。きれいな甘みを持つ豚肉で、付け合せのたくましく、甘みの濃い根菜たちと合わせて食べると、なにかこう、土の養分と同化していくような感覚があって、体の力がみなぎってくる。

「イチゴのソルベ」と「クリームブリュレ」。

 デセールはイチゴのソルベと自家製の卵を使った「クレーム・ブリュレ」。

 ワインもほとんどが国内産の自然派ワイン。野菜は無農薬野菜を使う。

 車の音も聞こえず、鳥や虫、カエルの鳴き声と、遠く聞こえる川の音に囲まれながらいただく食事は、心洗われ、体に英気を戻す非日常である。

 いや本来日常であったこの環境でいただく料理こそ、旅をして食べる意味があるのだ。

レストランさんざ
所在地 長野県佐久市春日2291-3
電話番号 0267-52-2080
営業時間 ランチ[月~水、土、日曜]12:00~13:00(L.O)、ディナー[月~水、金~日曜] 18:00~(完全予約制)
定休日 木曜
アクセス 店は佐久市の春日温泉に向かう山道にある。車なら上信越道佐久ICから30分ほどで、佐久平駅からもバスで60分ほど(1回乗り換え)。軽井沢からでも1時間ほどで到着する。
URL https://www.facebook.com/restaurantsanza/

<春日温泉>

春日温泉は開湯300年、低刺激で温泉療養に適しているアルカリ性単純温泉で、「美肌の湯」として有名。ph値が高く、肌がつるつるになるといわれる。宿泊施設も複数あるが、日帰り入浴も可能。近所には、蕎麦料理「職人館」、洋食「創作厨房たかむら」などのレストランもあり、春日温泉に泊まってのグルメ旅もおすすめ。

マッキー牧元(まっきー・まきもと)
1955年東京出身。立教大学卒。(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く。「味の手帖」 「銀座百点」「料理王国」「東京カレンダー」「食楽」他で連載のほか、料理開発なども行う。著書に『東京 食のお作法』(文藝春秋)、『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)、『ポテサラ酒場』(監修/辰巳出版)ほか。

Column

マッキー牧元の「いい旅には必ずうまいものあり」

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く「タベアルキスト」のマッキー牧元さんが、旅の中で出会った美味をご紹介。ガイドブックには載っていない口コミ情報が満載です。

2016.06.02(木)
文・撮影=マッキー牧元