味蕾が研ぎすまされ、口内の細胞が清められ、心が黙る

イワシと年豆、栃餅、黒皮茸、菜の花などの盛り合わせ。

 一皿目は、2月節分にちなんだ向付でイワシと年豆、栃餅、黒皮茸、菜の花などがそれぞれに料理されて盛りあわされている。続いては、裏いなりずし、むかご、干しわらび、ふきのとうとご飯、天にはつくし、松葉に大徳寺納豆。

 続いての汁は、大根と赤大根、カブを煮出した汁に、田芹とカブの葉を刻んで入れたものである。

大根と赤大根、蕪を煮出した汁に、田芹とカブの葉を刻んで入れたもの。

 「冬の厳しさに耐える為、野菜はミネラルを蓄えます。その野菜を煮出した汁です。出汁も塩も使っていません」。中東さんは、孫の旅立ちを見守るような優しいまなざしで言われた。汁を飲む。静かな静かな滋養が、舌を流れていく。日常で出会う強い料理とはかけ離れた、沈黙のうまみが流れていく。

 
味蕾が研ぎすまされ、口内の細胞が清められ、心が黙る。
野菜たちの命が、愚直な力が、精神を健やかに導いていく。
ため息一つ。
言葉は出ない。真の感謝の心は、息となって漏れてゆく。

 これがこの店の本領である。4皿目は、焼いたササガレイ。鯉鱗の飴炊きが添えられている。その対比的な食感がササガレイの淡い滋味を生かしている。

焼いたササガレイ。鯉鱗の飴炊きが添えられて。

 続いての小鉢、白い泡は、雪に見立てたポン酢のムース。上には赤カブの葉が載せてある。「雪をかき分けて食べてください」という言葉に従い、食べれば、日の菜大根、辛味大根、のびる。わさび菜とともに鯉の皮と皮の煮こごりが顔を出す。

 鯉皮のコラーゲンの甘みにポン酢の酸味が寄り添い、野菜の辛味がアクセントをする。晩冬の川に入ってあたりの恵みをそのままいただいているような感覚に陥る。

日の菜大根、辛味大根、のびる、わさび菜、鯉の皮、皮の煮こごりの上にポン酢のムースをかけて。

 続いて、蒸らし前のご飯を一口。まだアルデンテの未熟なご飯に、ありがたみを感じる。

 次は、上に金時人参を載せた、猪、堀川ごぼう、聖護院大根、蓮根の白味噌炊きである。力強い。野菜が白味噌の優しい甘みのなかで、凛々しくその甘みを伝え、汚れていない猪の滋味が、猪の脂がするりと溶けていく。

 そしておくどさんで焼かれたモロコが運ばれた。熱々をのびる酢につけてたべれば、はかない甘みが舌に広がって頬が崩れる。赤カブと葉を炊いたもののピュレで、また感覚が山野へと戻っていったところで、炊きたてのご飯とめざし、お新香、「草喰 なかひがし」のメインディッシュである。

2016.04.07(木)
文・撮影=マッキー牧元