三宅監督との仕事は、以前から夢だったんです。憧れの監督でしたから。

 監督の作品は『ケイコ 目を澄ませて』(22年)をはじめ、“人と人のつながり”というものをヴィヴィッドに描き出しています。一本一本の映画に登場する人物たちが交錯する際の“手つき”がステキなんです。

 だから釜山国際映画祭でお話しした際に、つい「いつか三宅作品に出たいです」と伝えてしまって(笑)。こんなに早く夢が叶ったことが信じられません。

李さんをありのままの自分自身に引きつけた

 映画はつげ義春先生の漫画「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」を原作にした物語です。さっそく原作を熟読すると、つげ先生の描く世界と“三宅ワールド”は、登場する人々の儚げで不可思議なつながりを描いているという共通点がわかりました。ますますワクワクして、クランクインを待ちました。

 わたしが演じた李さんは、30歳になった自分が挑戦したかった、フラットではない、複雑な内面を抱える役柄です。シナリオライターという職種も、なかなか映画で描かれない仕事でもありましたから、楽しみでした。

 シナリオはムダのないシンプルなもの。サイレント映画、バスター・キートンの映画などの感覚が息づいていると感じました。そんなことを監督とやり取りしながら、李さんになるためのアプローチを始めました。

 とはいえ、主に私がしたことは、李さんをありのままの自分自身に引きつけることでした。というのも、三宅作品には演技らしい演技をしないこと、演じる俳優の素顔をスクリーンに差し出すという特徴があるからです。

次のページ 「わたしはわたしのまま、現場に行くだけで李さんになれた」