魔法の部屋で繰り広げられる、現代の“錬金術”

 検品されたバラは大きな穀物袋に入れられ、別室に運ばれて、計量が始まる。ここはある意味、魔法の部屋だ。この部屋には大きな蒸留器が何台もあり、それぞれが時間差で稼働している。ここで行われているのは「水蒸気蒸留法」と呼ばれるもので、中世イスラム世界で興隆した錬金術や科学に伴い、アラビアで発達を遂げた。

 この工房では、1キロのバラに対し、1リットルのローズウォーターを採取している。100ミリリットルのローズウォーターに、60~70輪のバラの香りやエッセンスが封じ込められているといったら、イメージしやすいだろうか。作業台の上にはなにやらアラビア語で書かれたグラフがあり、ひとりの男性が数字を記入していた。各蒸留器にナンバーが振られ、バラの量、使用する井戸水の量、点火時刻、初めの一滴を採取した時刻、それに至るまでの時間、蒸留し終わった時刻、それに至るまでの時間が丁寧に記入されていく。

左:検品&計量の済んだバラは、蒸留用の金属のカゴに入れられる。
右:1回の蒸留に使うバラの量は、男性2人がかりでやっと持ち上げられるほどの重さ。蒸留用の井戸水とバラが入ったカゴをセットした後、蒸留器に火がつけられる。

 作業をするスタッフたちの表情は真剣そのものだ。ボイラーを使って高い圧力をかければ、一度に大量のローズウォーターを作ることが出来る。しかしこの工房では、敢えてゆっくりと時間をかけて蒸留を行う。なぜなら圧力により、バラの香りが変わってしまうからだ。

 ここでは伝統的な蒸留器を使い、経験を摘んだスタッフが根気強く火加減を調節しながら作業が進められる。ハイテクではなく、敢えてローテクにこだわるというのは、熟練した技が求められるということ。彼らが黙々とこなしていく作業につき合ううちに、蒸留器が発明された中世イスラム時代に迷い込んだような錯覚さえ覚えた。彼らは現在に甦る錬金術師のようだった。

岡本翔子(おかもとしょうこ)
占星術家。ロンドンにある英国占星術協会で心理学をベースにした占星術を学ぶ。CREAでは創刊号から星占いを担当。月に関する著作・翻訳も多く、月の満ち欠けを記した手帳『MOONBOOK』は、10年以上続くロングセラーに。
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