村上隆ワールドにたっぷり浸れる大チャンス
世界のアートシーン最前線に立ち続けている村上隆の、海外での評価と存在感は絶大なものがある。それなのに、国内ではどうにも振るわない。知名度こそあれど毀誉褒貶が激しい。どちらかといえば「高尚さがない」「マーケティングに走り過ぎ」などと、批判的な声が優勢かも。
そんな状況を覆さんと、「村上隆の五百羅漢図展」が東京・森美術館で始まった。日本での大きな個展は、2001年の東京都現代美術館以来、14年ぶりとなる。日本のトップ・アーティストの一人なのは間違いないのに、ちゃんと作品を観る機会がかくも限られていたとは。そんな状況って、やっぱりどこか歪んでいる。これでは批判の取っ掛かりもなければ、好きになるきっかけだって見つけられないじゃないか。
今展は、日本という土壌が村上隆を受容する大チャンス。会場が日本屈指の巨大展示空間を持つ森美術館なのは幸いだ。村上隆ワールドにたっぷり浸りながら、惚れ込むにせよ受け付けないにせよ、私たち一人ひとりがじっくり判断すべし。
出品されているのは、日本初公開のものばかり。「DOB君」をはじめ、村上作品でお馴染みのキャラクターが多数登場するペインティングや彫刻はどれもかわいらしくて、分かりやすく眼を楽しませてくれる。同時に絵画の平面性や、物体が空間に立ち現れることの不思議さを、ごく自然に感じ取ることもできて、アートを読み解く悦びも味わえる。
会場を巡っていると実感する。知識の深浅や年齢性別に関係なく、誰もが何かを感じ取れる村上作品の器の大きさを。美術作品として、かけがえない美点だと思う。
さて、新作群のなかでもとびきりの目玉は、展名にもなっている《五百羅漢図》。高さ3メートル、幅は100メートルというあまりの壮大さに、まずはひたすら圧倒されてしまう。
羅漢とはブッダの弟子たちのこと。500人に及ぶ僧侶たちそれぞれを、ユーモラスな姿に描き分ける力量には感嘆しきり。彼らの着衣の柄まで凝りに凝って描き込んであり、羅漢に付き従う霊獣もまた魅惑的。離れて全体を眺め、ぐっと近寄り細部に見入り、と繰り返すうち知らず知らず時を忘れ、村上が生み出した宇宙へと引き込まれてしまう。
これはもう、「こんなの見たことない!」と驚嘆する以外に、反応のしようもない。びっくりさせられるだけじゃない、慈悲深い羅漢の表情を見ていると、じわじわと共感の念も湧いてくる。
今作がはじめて公開されたのは2012年、カタール・ドーハで開かれた「Murakami-Ego」展でのこと。3年の時を経て、ようやくすぐ近くにやってきた。作品を眼前にすれば、作者への好悪なんて超え、とんでもない表現と直に触れられたありがたさに気持ちが満たされていく。
『村上隆の五百羅漢図展』
会場 森美術館(東京・六本木)
会期 2015年10月31日(土)~2016年3月6日(日)
料金 一般1,600円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
URL http://www.mori.art.museum/
2015.11.14(土)
文=山内宏泰