春画を集めた大展覧会が、とうとう開催
ミステリー作品に出てくる「黒幕」よろしく、ふだん表に現れなくとも、じつは重要な事物や人物が裏に控えている――。どんなジャンルでもあることだろうけれど、日本美術の世界にもそれは存在する。
展示の機会は限られ、言及されることも少ないが、歴史上は「肝」となる作品群が日本には2つある。
まずは「戦争画」。日中戦争~太平洋戦争時に描かれた戦争記録画のことだ。軍部に協力するかたちで、画家たちは戦場や銃後の光景を作品に仕立てた。善悪の判断は措くとして、戦争という題材は劇的かつ高揚感を伴い、力作が多く残った。が、未だまともに作品として論じられないのが現状。
もうひとつは、「春画」だ。性愛をモチーフにした浮世絵の総称で、浮世絵版画が盛んに作られた江戸時代を通して、2000~3000点の春画が生まれ流通したと目される。
もちろん春画の存在くらいは、知っている人がほとんどだろう。上に掲げた葛飾北斎作、女性が大蛸と絡む絵なんかは、どこかでイメージを見かけたこともあるのでは? ただ、実際の版画作品に触れた経験となると、ほとんど持ち合わせていないのではないか。春画がまとまって出品される展示は、これまでほとんど例がない。どうしてもポルノ扱いされてしまい、美術館などで扱ってはもらえないのだ。
何とももったいないと思う。浮世絵は日本美術の精華であり、世界的にも高い評価を得ている。海外で最も広く知られる日本のアーティストといえば、圧倒的に浮世絵師・葛飾北斎である。そんな浮世絵において春画は、役者絵、美人画などと並び重要なパートを占める。北斎だって喜多川歌麿だって、名だたる絵師はみな春画を描いた。春画を無視していては、彼ら日本を代表するアーティストの全貌を知ることは決してできなくなるのだ。
そうした曰くつきの春画を集めた大展覧会が、とうとう開かれることになった。その名も「春画展」。国内外の美術館コレクション、個人蔵の作品から鈴木春信、鳥居清長、歌麿、北斎ら浮世絵の歴史を築いたビッグネームがずらり名を連ねる。
性愛を主題とする春画には、ドラマ性や感情の高ぶりがきっと入り込むし、摺りや仕上げが豪勢なものも多いので、絵画作品として絶大な迫力と完成度を誇る。誇張して描かれた局部は刺激が強すぎるかもしれないけれど、それも含めて画面全体のデザインを見事に調和させているのは、さすが名絵師たちの仕事ぶり。
日本の美術に多少なりとも関心を持つ向きは、この展示を見逃したりしたら、きっと後悔してしまう。
『春画展』
会場 永青文庫(東京・目白台)
会期 2015年9月19日(土)~12月23日(水・祝)
料金 一般1,500円(税込)
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)
URL http://www.eiseibunko.com/shunga/
※18歳未満は入館禁止
2015.10.03(土)
文=山内宏泰