天才建築家フランク・ゲーリーの創造性に学べ

 工費が高くつくことや、TPOにふさわしかったかどうかはおいても、ザハ・ハディドの新国立競技場プランはいいデザインだった。建築として立ち上がる姿をぜひ見たかった。牡蠣が垂れたようだ……などといって、大胆なフォルムが批判を浴びたのは解せない。そもそも現代建築としては、さほど突飛でもない。むしろザハ建築にしては抑えが利いているほうだし、もっとド派手な設計ばかりする建築家はいる。

現代建築界をリードする建築家フランク・ゲーリーのこれまでの仕事の全貌、創造の源やその展開のさせ方を明らかに。とりわけ彼の「アイデア」に焦点を当て、それが生まれ出る背景やゲーリー自身の思想に迫る。展覧会ディレクターを新進建築家・田根剛が務める。
ウォルト・ディズニー・コンサートホール アメリカ・ロサンゼルス 2003 Image Courtesy of Gehry Partners, LLP

 その筆頭はフランク・ゲーリー。米国を拠点に、半世紀以上も活動を続けてきた建築界の名物男である。彼が手がけるものはいつだって斬新そのもの。たとえば、スペイン、バスク地方の都市ビルバオで威容を誇るグッゲンハイム美術館。チタン製の曲面が自由自在に折り重なって、みずから生成した生命体のごとき存在感を醸す。ネルビオン川の照り返しを乱反射させて輝く巨大美術館は、間違いなく街のランドマークであり、この建築をひと目見ようと世界中から人が押し寄せる。

 ロサンゼルスのウォルト・ディズニー・コンサートホールの外観を覆うキラキラした曲面は、ステンレス板を折り紙のように用いたもの。ディズニーらしく夢の世界に迷い込んだかのような形態とともに、内部のホールは居心地、音響とも高レベルに保たれている。

 昨年はパリのブローニュの森に、ルイ・ヴィトン財団美術館を完成させて話題をさらった。こちらはガラス面が幾重にも覆い被さっていて、すでにパリを代表するモニュメントの仲間入りを果たしている。

フランク・ゲーリーPhoto by John B. Carnett/Bonnier Corporation via Getty Images

 あまりに時代を画する仕事ばかりなので、素朴な疑問が浮かぶ。彼はいったい、どこからこんな人を驚かせる発想を得て、それらをどうやって実現させているのか。そのヒントを示す展覧会が、21_21 DESIGN SIGHTで開かれる。『建築家 フランク・ゲーリー展』。

 会場内ではまず、撮り下ろされた映像によるプロジェクション・マッピングで代表作を通覧。建築の形態を決定するまでに用いられる各種模型が並ぶのはもちろん、ゲーリー自邸の映像や、彼の事務所を一部再現したコーナーも。シドニー工科大学内に建てられたUTSビジネススクールを例に、設計プロセスをつぶさに見せる展示も秀逸。最初に四角いブロックを積み上げて、クライアントから要望された空間容積をきちんと確保。そのうえで、さまざまな素材でどう外観を覆い、質感や形態を得るか検討する手順なのだそう。

UTSビジネススクール オーストラリア・シドニー 2014 Photo:Andrew Worssam

 真に創造する者のアイデアの出し方、膨らませ方を実地に、事細かに見ることができるこの上ない機会だ。

『建築家 フランク・ゲーリー展 “I Have an Idea”』
会場 21_21 DESIGN SIGHT(東京・六本木)
会期 2015年10月16日(金)~2016年2月7日(日)
料金 一般1,100円(税込)ほか
電話番号 03-3475-2121
URL http://www.2121designsight.jp/

2015.10.20(火)
文=山内宏泰

CREA 2015年11月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

京都ひとりガイド

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