カンボジア胡椒復活の陰には一人の日本人が

胡椒は熱帯性の植物で、成長すると高さが5~9メートルに達する。蔓性の樹木なので、こうした柱に巻きついて成長。

 でこのカンボジアが、もうひとつ世界に誇るのが胡椒。南部の特産品だが、北部のシェムリアップ空港の免税店でも、いちばん目立つ場所で売られるカンボジア土産の定番だ。

 かつて“世界一おいしい”といわれ、ヨーロッパの商人たちが海路でカンボジアの胡椒を目指したのは、中世の話。大航海時代のこと。以降、1960年代まで、世界一のカンボジア胡椒は年間8000トンが世界市場に出回り、あまねく知られていた。が、70年代の内戦でその生産量は激減。香り高い高級ペッパーは市場から姿を消してしまう。

胡椒の実は一房から50~60個採れる。1本の蔓から採れるのは、乾いた状態で年間約2キロだそう。

 内戦後、90年代後半になってその生産が再開されるが、“カンボジア産高級胡椒”のブランドを立て直すのは至難だったらしい。そんな状況で、カンボジア胡椒復活に一役買っているのが、日本人の倉田浩伸さんだ。

 1997年から、700年の歴史をもつ伝統的な農法にこだわり、カンボジア南西部に広がるカルダモン山脈の契約農家によるオーガニック栽培を手がけている。3年前からは、一房で数粒しか取れないという厳選粒でつくる、最高級の完熟胡椒のネット販売もはじめ、カンボジア産胡椒の高級ブランド化に力を入れている。

シェムリアップの空港で売られている、カンポット産の高級胡椒。40g入って、5.50USドル。黒胡椒だけでなく、緑、ピンク、赤と種類も揃う。色の違いは収穫後の処理の違いで、ほのかに味も違う。

 この「クラタペッパー」、カンボジア土産の定番となり、現在では限定されてはいるものの欧米や日本市場に販路が広がっている。

左が、シェムリアップにあるラグジュアリーホテル、ベルモンドのプチギフト。チェックアウトの際、宿泊客に贈られる黒胡椒だ。右は、日本人の倉田さんが販売しているクラタペッパー。日本の食通の間でも知られるブランドに成長した。

 南部の胡椒農家もカンボット胡椒プロモーション協会を結成し、原産地表示や製品コード番号化、賞味期限の明記を遵守してクオリティを管理。139の農家による胡椒の70%はヨーロッパに輸出され、30%は高級ペッパーとして土産用に販売されている。世界一のカンボジア胡椒復権も間近というところまで来ているようだ。

クラタペッパー
URL http://www.kuratapepper.com/

大沢さつき(おおさわ さつき)
大好きなホテル:LAPA PALACE@リスボン
大好きなレストラン:TORRE DEL SARACINO@ソレント
感動した旅:フィリピンのパラワン島ボートダイビング、ボツワナのサファリクルーズ、ムーティ指揮カラヤン没後10周年追悼ヴェルディ「レクイエム」@ウィーン楽友協会
今行きたい場所:マチュピチュ

Column

トラベルライターの旅のデジカメ虫干しノート

大都会から秘境まで、世界中を旅してきた女性トラベルライターたちが、デジカメのメモリーの奥に眠らせたまま未公開だった小ネタをお蔵出し。地球は驚きと笑いに満ちている!

2015.06.23(火)
文・撮影=大沢さつき