世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、週替わりで登板します。

 第83回は、大沢さつきさんがカンボジアのシェムリアップで滞在した至福のラグジュアリーホテルについてレポートします。

やっぱり一度は行きたい世界遺産、アンコールワット

ツーリストが続々押し寄せるアンコールワット。3つの塔が並ぶ中央の祠堂がシンボルだ。

 アジアの世界遺産の中でもとりわけ人気の高いアンコールワット。世界で最も大きな宗教崇拝の建造物群は、およそ9平方キロものスケールだ。そして、外周12キロの濠に囲まれ守られている。カンボジア国旗に描かれているのが、中央の祠堂。サッカーW杯予選でカンボジアが日本と同組になったので、TV観戦の折にでも国旗を確認したい。

アンコールワットはヒンズー教の寺院ともいわれるが、一概にそうともいえず。日本の神仏習合のように、大乗仏教とヒンズー教が融合した寺であるとされる。西に向いているのは、建立した王の死を弔うためのものであったからともいわれている。でも、建てた時点では亡くなってはいないわけでして……。

 12世紀はじめに建てられたこの巨大寺院は、西向きに建てられているので、逆光を避けて午後に訪れるツーリストが多い。あるいは明け方。日の出を背景にしたアンコールワットも美しい。とにかくひっきりなしに観光客の訪れる人気遺跡だが、広さのせいか混雑した感じはあまりしない。

回廊の壁面にびっしりと刻まれた彫刻絵巻。こちらは南面西の“歴史回廊”。
かつては直接触れることができたので、凸面はぴかぴか。このつやが描写にいっそうの趣を加えている。

 圧巻は、回廊壁面に施された彫刻。“歴史回廊”には、建立したスーリヤヴァルマン2世の華々しい戦譚が描かれていて、流れを追っていくとけっこう面白い。そして、王様を見分けるのは差し出されている傘の数なのだとか。勇猛な騎馬将軍たちも日傘の下に描かれているのだが、王様の傘はことのほか大きく数も多い。ほかにも『マハーバーラタ』や『ラーマーヤナ』の物語、天国と地獄の様子などが描かれているのだが、ストーリーを知らなくとも描写力に優れた彫刻なので堪能、満足至極。

左:シェムリアップの遺跡ではたくさんのアプサラ(水の精、宮廷の踊り子)を見るが、アンコールワットには1750体のアプサラの彫刻があるとか。みんな表情も動きも微妙に違う。
右:疲れて腰掛けちゃってますけど、その石も遺跡の一部。倒壊したものだそうな。

 が、精緻を極めた彫刻に目を見張りながらも、災害や数多の戦争で破壊された傷跡も残念ながら、まだ生々しい。こころないツーリストのイタズラ書きも嘆かわしい。とはいうものの、現在、世界各国が協力して修復にあたっていて、日本は外濠の壁面をふくむ正面参道の修復を担当。その旨の掲示もあって、世界各国の観光客にもよいアピールになっている。と、ちょっと胸を張りつつホテルへ。

この表参道の修復に、日本は貢献中。夕暮れが近づいて、観光客もほとんどいなくなった。

2015.04.28(火)
文・撮影=大沢さつき