世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、週替わりで登板します。

 第91回は、アンコール遺跡でおなじみのシェムリアップを訪れた大沢さつきさんが、もうひとつのカンボジア名物の復興についてもレポートします!

巨大な観音さまの顔に圧倒されるアンコールトム

日の出に赤く染まるアンコールワット。年に2度、春分の日と秋分の日には、中央の祠の真後ろから太陽が昇る。この祠はヒンズー教の太陽神、ヴィシュヌ神を祀っており、周到に計算された建築であることがわかる。

 「トリップアドバイザー」の2015年、人気観光スポット(ランドマーク編)の第1位にもなったアンコールワット。世界中のツーリストを惹きつけるその魅力は計りしれないが、アンコールワットはその象徴で、実は周辺に点在するクメール王朝時代の遺跡群を含めた人気のよう。実際にアンコールワットのある街、シェムリアップを訪れたことのある人なら混同することはないけれど、遺跡群をアンコールワットと思っている人は意外に多い。

鬱蒼と樹木の茂る緑の中にあるバイヨン遺跡の四面像。貴重な遺跡にペタペタと触れたり、登ったりできるというのもどうなの~とも思いつつ、柵やロープで囲われたらそれはそれで興醒め……。

 もちろん、この遺跡群の中でのいちばん人気はアンコールワット。12世紀前半に建立されたとされる寺院都市は、スケールも大きく美しい。崩壊した箇所すら、栄耀栄華の夢の跡を偲ばせ、ロマンをかき立てる。そしてほかの遺跡とは異なり西向きに立つこの遺跡は、朝焼けに浮かぶシルエットが美しい。

 次に有名なのが、アンコールトム。12世紀末から13世紀初めにかけて建てられた、アンコール帝国最後の都市だ。その中でも人気が、仏教寺院だったバイヨン遺跡。49の塔四面に彫られた観世音菩薩が特徴で、どんと大きな観音さまの顔があちこちから観光客を見下ろす。

穏やかな観音さまの彫刻は、日本人にもおなじみ。さすがにこれだけ巨大だと圧倒はされるが、ボーッと眺めていると親しみも湧くし、それぞれの観音像のちょっとした違いに気づいて面白い。

 菩薩彫刻が四面に施されているのは、アンコール帝国にとっての重要な4つの方角を意味しているからなのだそうで、遺跡に登り、しばしの時間観音像に対峙していると、太陽の位置とともに面相が変化していく様が楽しめる。

2015.06.23(火)
文・撮影=大沢さつき