フロントマン「尾崎世界観」の芸名の由来は?

山口 ちなみに、ヴォーカルで、ほとんどの曲の作詞作曲をしている尾崎世界観の芸名は、デビュー以前に「世界観が云々」と言われたことへの違和感から付けたそうですね。僕も言いそうな言葉なので、安易に使わないようにしようと自戒しました(笑)。

伊藤  ベスト盤のことといい、名前のことといい、なんだかなかなかナイーブな心の持ち主なんですかね。2013年には尾崎世界観がSMAPに楽曲提供していますね。これをもって彼らも国民的アイドルが認めたロックバンドってことになるのかな? 昔から成功したアーティストが他のアーティストやアイドルに楽曲提供するってことはあるけど、最近は逆にブレイク前のアーティストが楽曲提供をきっかけに自分たちも成功していくっていう形もあるようですね。

山口 ブレイクするのか、しないのか、みたいな評価を「ノイズ」と感じて、マイペースを貫こうとしてるような気がします。ファンとの関係をベースに、着実に成長している感じがしますね。実はまだライブを観てないので、一度、観てみたいです。才能にキラメキを感じます。

伊藤 ですね。SMAPに提供した曲はそんなに記憶に残っていないですが、クリープハイプも詞が印象的なバンドですね。「愛の標識」とか「百八円の恋」とかもチェックしてもらえると分かると思います。

山口  そんな印象的な歌詞は、「作詞アナリスト」の琴線を震わせそうですね。どんな妄想分析が浮かびましたか?

伊藤 僕は赤信号がダイ、ダイ、ダイ、大嫌いだ。歩行者用の信号が赤くなっているのを見るとイラつく、というか気持ちが縮みあがる。横断歩道の終着点に陣取った四角いそれ。とても偉そうに帽子をかぶったおじさん、なんだか昭和の匂いのするおじさん、それが行く手を阻むように赤いライトの中で、お待ちなさい! と言っている。その威圧感に、とてもじゃないけど信号無視なんかできない。平原のクロスロード、半径1キロメートル誰もいなくても、信号無視なんてできない。だって赤信号のおじさんが見ているのだから。

 不思議と青信号のなかのおじさんは、ダンスをしているような、おどけたような、まだ子供はいないけど子供好きな親戚のような親しみがある。どっこらしょ、とか、へヘイヘイ、とか、内緒にしといてあげる、とか言いそうだ。だけど、赤信号のおじさんがへの字口に口髭なんかもたくわえて、あのぉ~、なんて消極的な態度をみせようものなら、最近の若者はけしからん! とか言いそうだ。僕はそれに今日も縮みあがる。

 彼女に伝えたいことがあって勇んで家を出たのに、駅前のおじさんに睨まれて心が萎えて、萎えて、萎えて、たぶんもう伝えられない。なんだってこのおじさんは、こんなに……こんな帽子をかぶって、最近の若者はけしからん!って言うんだろう。僕の心はもう砕けて、コンビニで僕を慰めてくれるスイーツを5個くらい買って、帰巣本能に従う。問題は棚上げ、彼女は待ちぼうけ、僕は背負い投げ……られる。赤信号のおじさんのせいで。

山口  せ、せ、世界観がわからないです(笑)。

クリープハイプ「愛の点滅」
ユニバーサル ミュージック 2015年5月5日発売
青盤[初回限定盤]1,200円、黄盤[UMストア限定盤]1,200円、赤盤[通常盤]1,200円(税抜)
■クリープハイプは、2001年に結成、2012年にメジャーデビューを果たす。水城せとなのコミックを原作とした『脳内ポイズンベリー』の主題歌となったこのシングルの表題曲のミュージックビデオでは、現代アーティスト鈴木康広の生み出した「まばたきの葉」という作品とのコラボレーションを行っている。
■「愛の点滅」作詞・作曲/尾崎世界観
■オフィシャルサイトURL http://www.creephyp.com/

2015.04.29(水)
文=山口哲一、伊藤涼