僕らの世代が、家族像を再獲得していくために

今月のオススメ本
『あなたの明かりが消えること』柴崎竜人

小料理屋「来栖」の店内で、物語は幕を開ける。店を切り盛りする倉田すみ江、女将の来栖愛子、夫の来栖哲生。章ごとに視点人物が替わり隠された謎が明かされた後、最後の視点が現れる。「彼」は、今はもういない「彼女」のことを心の底から愛していた――。
柴崎竜人 小学館 1,100円
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 東京・三軒茶屋のプラネタリウムバーに集まる人々の姿を描いた『三軒茶屋星座館』(シリーズ既刊2巻)で、新世代家族小説の旗手として名乗りをあげた柴崎竜人。最新作『あなたの明かりが消えること』もまた、この人にしか書けない繊細さ、真摯さで書かれた家族小説だ。

「『三軒茶屋星座館』では登場人物の後ろからついていく感覚なんですが、この小説に関しては、登場人物の隣を歩いて一緒の景色を見ている感覚でしたね。いや、彼らの中に“入っていく”感覚だったかもしれません」

 ある家族を巡る物語だ。浮気性の男と、小料理屋を営むしっかり者の女。夫婦の特別な関係性の間を、娘や義理の息子などさまざまな人物達がよぎっていく。彼らはみな、家族の問題で煩悶している――。わずか220ページの中に、とびきりのドラマ密度と軽やかさが両立する本作は、完成までに長い年月がかかった。

「漠然とした家族像は事前にあったんですが、あえて物語の構想は立てず、キャラクターの設定も決めずに、とにかく1行目を書き出してみたんですよ。そこから完成まで、7年かかりました(笑)。原稿用紙換算で、3000枚は書いていると思う。他の小説も書きながら、僕はずっと、家族とは何だろうとこの小説を通して考え続けてきたんです」

 ある登場人物は言う。「家族が欲しい」。それに対して、別の登場人物は応える。「なぜ家族など欲しい?」。両者のやりとりは物語を突き抜けて、読者の胸に突き刺さる。

「複数の読者さんからも、そのシーンが印象に残ったという感想をもらいました。昭和の大家族はとうの昔に維持できなくなり、日本の経済成長とともにどんどん核家族化していって、今や“核”しかなくなってしまっている。僕ら世代はこれからどんな家族像を再獲得していくのか?   その答え、もしくは手がかりを、この小説の中で描きたいと思っていました。きっと描けたんじゃないかな、と思っています」

 小説を読むという経験は、人生を変える可能性がある。そのことを身をもって体感した作家が目指すのも、その境地だ。

「“小説ってこんなに面白いものなんだ!”と、読者にとって小説というジャンルの入口になれるような存在でありたい。だからこそ、物語の設定は奇をてらわず、平易な言葉で読みやすいものを。にもかかわらず、深いものを書いていきたいんです」

 柴崎竜人が切り開く「小説」と「家族」の未来に、清き一票を投じたい。

柴崎竜人 (しばざきりゅうと)
1976年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2004年、処女作「シャンペイン・キャデラック」で第11回三田文学新人賞を受賞。『三軒茶屋星座館』シリーズが話題に。

Column

BOOKS INTERVIEW 本の本音

純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!

2015.02.03(火)
文=吉田大助

CREA 2015年2月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

カラダを整えればやせる!

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定価780円