客室はただ眠るためだけではない、特別な場所
339の客室はほとんどがチャオプラヤ川を望むリバービュー。床から天井までの大きな窓からは、心休まる大河の風景が広がる。窓辺に置かれたどっしりとしたソファに背を預け、いつまでも見ていたくなる。
エレガントな調度品でまとめられた室内は広さも十分。大理石をふんだんに使ったバスルームもゆったりとした造りだ。シンクにはスツールを置き、拡大鏡も用意。ディナー前のメイクも優雅な気分に。
デスクの上には、蘭の生花とゲストの名前を金の字でエンボス加工したレターセットが。メールの時代の今だからこそ、旅先から手紙を送るのも一興だろう。そして脇のスモールテーブルには、熱帯のフルーツを日替わりでサーブ。脇に添えられたカードにはフルーツの説明があり、それを読むのも毎日の楽しみに。ちなみに部屋に用意された紅茶はTWG、バスアメニティは爽やかなレモングラスの香り(スイートはイタリアのアクア・ディ・パルマ)。
各フロアのエレベーター脇にはバトラーがスタンバイし、外出から戻ると「おかえりなさい」と笑顔で挨拶。バトラーはリクエストに対して応えてくれるだけでなく、会話を重ねるうちに、こちらの好みも解し、お願いする前から気を利かしてくれることも。それはロビーのエレベーターボーイも同様で、開いたドアを押さえながら、さりげなく客室の階のボタンまで押してくれたりもする。ゲストの顔とフロアが頭の中に入っているのだ。こうしたやりとりからも、ここが単なるホテルから、心の中で特別な場所へと変わってくることだろう。
憧れは、作家や著名人の名前がつけられたオーサーズスイート。それぞれの個性や作品の世界観を映し出すデザインになっている。138年前に建造された旧オーサーズウィング内の「ヘリテージオーサーズスイート」には、ジョセフ・コンラッドやサマセット・モーム、ノエル・カワード、ジェームズ・ミッチェナーのスイートが。天井が見上げるほど高いのも、当時の建築の特徴だ。
また、リバーウィングの「オーサーズスイート」にはグレアム・グリーンやジム・トンプソンなどのスイートが。個性豊かな文豪たちが愛した空間を、時代を超えて体験できる。
2014.12.29(月)
文・撮影=古関千恵子