ゆるい空気感がインドア女子の心を掴む

山口 伊藤涼がプロデュースを手がけ高宮マキがヴォーカルを務めた「おべんとクン」(Youtube)は、僕も大好きですが、キッチンミュージックは30代の奥様の歌ですね。

伊藤 そうですね。キッチンミュージックは子供を持つ主婦向けで、でも子供向けじゃないっていうのがテーマでした。あくまでも教育系音楽ではなく、大人がキッチンで楽しむ音楽というイメージでした。

山口 なるほど。他の曲も台所で料理しながら口ずさむ姿がイメージできる歌ですね。そもそも何故、伊藤さんは、「フードミュージックプロデューサー」と名乗ることにしたのですか?

伊藤 ジャニーズのディレクター時代に「ミソスープ」という曲をプロデュースしたことがあったのですが、それが企画から制作まで、自分的にはシックリきていたんです。ジャニーズを辞めてから、プロデュースしたものを振り返ると、食に関する楽曲を結構つくっていて、「もしかしてオレって、この感じけっこう好きかも」って思ったんですよね。だったら名乗っちゃおう! ってカルい感じですけど(笑)。

山口 Twitterを見ていても、野菜料理作りが趣味みたいですね。それに、このコラムでも何度か話しましたが、音楽と食は共通点が多いですよね?

伊藤 そうですね。特に日本における食と音楽という所では、外から入ってきた文化を自分たちなりに解釈し、独自の進化をさせたところ。そういった進化を遂げた日本の食と音楽が、まさに今世界から注目を浴びていますよね。いい例が、豚骨ラーメンとPerfumeですね。こういった日本文化のもつ特性が、フードミュージックのグローバルな可能性も広げているとも考えています。

山口 なるほど。食×音楽で、日本カルチャーをグローバルに広める伝道師が「フードミュージックプロデューサー」のビジョンなんですね! 素晴らしいです!

伊藤 まあ、音楽プロデューサーとしてのブランディングでもあるんですけどね。

山口 なるほど。キャリアを重ねると、プロデューサーには経験や幅広いネットワークと共に、その人にしかできない得意分野は求められますよね。新しい才能はどんどん出てくるし、生き残っていくのは大変です。これは、音楽家だけでなくあらゆる分野のクリエイターに言えることですね。初めて仕事することになった人は、会う前にグーグル検索する時代ですから、セルフブランディングは、以前にも増して重要ですね。

伊藤 そうですね。優位性のないクリエイターは埋もれてしまう時代ですね。PCにかぶりついているだけじゃダメですね。

山口 やはりDJみそしるとMCごはんは、見逃せない存在ですね。

伊藤 DJみそしるとMCごはんは、上京して独り暮らしをはじめて、最初は外食に明け暮れたけど、けっこう飽きたしそろそろ自炊でもしてみようか! って感じ。まさに女子大生か就職したての女子向けなんだけど、それ以上にあのゆるい空気感がインドア女子の心を掴むマジックがありますね。「キッチンミュージック」と比べるとヤングマーケット向けですが、フードミュージックプロデューサーとしては、いつかコラボってみたいですね。

山口 いつかとか言ってないで、すぐにコンタクトするべきですよ。個性的なクリエイティブはあっても、ビジネス的に大きくスケールするのは簡単ではないでしょうから、伊藤さんのプロデュース力とネットワークは、今の彼女にとっても有益だと思いますよ。

伊藤 そうですかね。では、ちょっと前向きな企画を考えてみます。

2014.09.30(火)
文=山口哲一、伊藤涼