左派政党の失敗

――ジャン=リュック・メランションという政治家がデモの現場にいたことで、暴動と同一視されているように見えますが、彼は高校生デモのほうに参加していたということですね。

 そうです。ジャン=リュック・メランションは元々社会党左派で、「不屈のフランス」という左派政党を率いています。右派政党である国民連合(RN)のマリーヌ・ル・ペンとは真逆の党と言われています。

 彼らは今回、若者層を取り込もうと高校生によるデモを支持しました。極右にとられている「下」の層を引きつけるのが目的です。実はメランションらは「黄色いベスト」運動のときも参加者を引きつけようしていましたが、失敗して極右運動になってしまった。そこで、今回は積極的に関与したのですが、10月17日のデモでは暴動が起きてしまったのです。

 デモがデモで終わればプラスになったかもしれませんが、暴力的なものが入ってくると、世間の風当たりは逆風になります。そしてそれを中道および右派の人が攻撃するわけです。メランションも暴力の一塊として非難されてしまう。

ル・ペンが大統領に近づいた

――一方、右派政党・国民連合(RN)候補のマリーヌ・ル・ペンは今回の件についてどういうスタンスでしたか。

 完全に漁夫の利を得ましたね。マリーヌ・ル・ペンは本当にうまい政治家です。私は極右運動を彼女の父ジャン=マリー・ル・ペンの代からずっとウォッチしていますが、彼女は政治がうまい。

 今回彼女は「抗議行動には賛成だが、今日のデモへの参加は求めない」と、どっちに転んでもいいようにふるまっていた。結果的に暴動が起きて「ほら見ろ」となり、治安を守れなかった政府も含めて左翼と中道を攻撃できる。彼女は自分よりもっと右の過激な勢力とは距離があるので、非常にいい位置にいるわけです。

――マクロンに続く中道勢力が大統領の座を射止めるのは、もう厳しいですか。

 厳しいですね。中道勢力はもう完全に右派とくっついてしまいました。中道左派政党である社会党が反メランションの候補を立てましたが、もしその人が本当に出馬したら、マクロンに続く候補はメランションに負けてしまうでしょう。マクロン率いる中道政党「再生」と社会党による中道勢力が両方合わされば得票率が25%いくかもしれないけれど、例えば13%と12%に分かれ、メランションが14%取ったら、彼が決選投票に進んでしまう。

 元々、デモがあろうがなかろうが中道勢力もメランションをあまりに敵視しすぎているので、仮に中道候補が決選投票に進んでも、「メランションを敵視するあいつらには投票しない」という左派層が出てきて、逆にル・ペンに利することになる。

 今回のデモで、ル・ペンはもともと大統領就任に近づいていましたが、さらに近づいたといえるでしょう。

» 【初めから読む】「デモと暴動はまったくの別物」「外的要因というよりはアメリカ要因」各地で大規模デモ勃発…いまフランスで何が起きているのか?

・この対談は文藝春秋PLUSにて公開された動画(10月24日公開)をWEB記事用に抜粋・再構成したものです。
・動画では対談の様子をすべてご覧いただけます。
https://youtu.be/v7UDwcCG2f0?si=NxxAGAd_dKJqX13L

広岡裕児(ひろおか・ゆうじ)

1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。ジャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ様々な業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)他。

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