まさかのすっぽかし事件にヒーロー現る
――出演する落語家さん、お客様もその日限りの一発勝負。蓋を開けてみないとどうなるかわからないのがライブの醍醐味だと思いますが、想定外のハプニングもあるのでは?
旨山 ありました! この夏、大事件が。しかも空治さんに関わる出来事です。
――なんと! ぜひ聞かせてください。
旨山 「浅草落語ナイト」にご登場いただく落語家さんは事前に決まっているのですが、その日お越しいただく予定だった方(空治さんではない)が21時開演の5分前になってもおいでにならなかったんです。
香月 私は当日の司会担当でした。通常なら、落語家さんをお出迎えし、控室にご案内、会場の準備が整ったらお迎えに行き、私がお客様に簡単な説明をしてから「お願いします」と高座にお通しするという流れです。でも、当の落語家さんが一向に⋯⋯。
実は私、司会を始めてからまだ日が浅く、その日が3回目でした。「落語家さん、まだおいでにならないけれど、大丈夫なのかな」と思いつつ、遅めの方もいらっしゃると聞いていましたし、自分自身の緊張もあって、対処が遅れてしまいました。
さすがに遅すぎるのではと思い、その落語家さんにお電話してみるも繋がらず⋯⋯少なくとも定刻の開演は無理だ、となって、まずは会場のお客様に説明とお詫びをしに行きました。
――ちなみに当日の客入りは?
香月 ほぼ満席でした。みなさん、さすがに「え~?」となって、お部屋に戻られる方もいらしたのですが、「開演の可能性があるなら待ちます」と言ってくださる方も多かったんです。ありがたい気持ちでいっぱいでしたが、その時点では開演をお約束できる状況ではなかったので、ものすごく不安でした。
旨山 とにかく代役を見つけなければということで、いつも出演してくださる落語家さんのなかから、お二方にご連絡しました。それでダメなら諦めようと。そのひとりが空治さんでした。
――一方その頃、空治さんは。
空治 新宿末広亭の出番が終わって、17時くらいから新宿で飲んでいました。電話がかかってきたのが21時を過ぎたころで、最初は無視したんですよ。飲みの誘いならすぐ出るんだけど、知らない番号だったし。
でも、またかかってきたんです。この時間にケイタイじゃない番号からのしつこい電話⋯⋯イヤな予感しかしませんでしたが、出たら旨山さんで「今日の出演者が来ない」と。最初は自分がうっかり出番を忘れていたのかと思って、一瞬で酔いが覚めました(笑)。
「今から来ていただくことは可能ですか?」
「いま新宿だから、浅草までどう頑張っても1時間近くかかるけど⋯⋯」
「それでもいいので、来てください!」
というわけで、急きょ店を飛び出して。タクシーを探しながら、着物を持っていないことに気づいた。翌日も末広亭の出番があるので、楽屋に置いて来たんですよ。しかも、その日は20時半終演で、21時過ぎには誰もいなくなる。
――だいぶピンチですね。
空治 仲間内のグループLINEに「誰かまだ新宿にいない?」と送っても、みんな飲んでて、なしのつぶて。ダメ元で末広亭の楽屋に電話をかけたら、なんと出てくれたんです。その日はたまたま作業があって、人が残っているとのことでした。
急いで楽屋に行き、着物をぐるぐる巻きにしてバッグに突っ込み、浅草に向かうタクシーの中で着替えました。
空治 ホテルに着いたらスタッフの方が待ち構えていて、まるでスターのような大歓迎を受けて(笑)。お客さんをお待たせしているので、挨拶もそこそこに最上階の会場へ行き、すぐ舞台へ上がりました。お客さんたちは、なんだか変な感じになってましたね。
香月 本来の開演は21時ですが、その時点で22時を回っていて。お客様も私たちも「待ってました!」と。
空治 落語なんてそんな、待ちに待って聴くもんじゃないんですよ。「落語でも聴くか」くらいの軽いノリが普通です。でもこの時は皆さん、「来たぁ―!」みたいな、異様なテンションで(笑)。司会の香月さんがうまく繋いでくれていたんですね。
香月 お客様には、「予定していた方が来られなくなり、いま別の落語家さんがダッシュで向かっています。もしお待ちいただけるのであれば、ぜひ」と、正直にお伝えしていました。
空治 おかげさまで、高座に上がるのがめちゃくちゃ気持ちよかったです。
――その後の落語はいかがでした?
空治 いつも以上に大ウケしました。会場のテンションもさることながら、僕は僕で17時から飲んでたもんで、たいぶ出来上がっていて。この際だから酔っぱらいの噺にしようと。20分くらいある長めの噺なので普段はやらないんですが、そこは酔った勢いで。
――昭和の名人の逸話のような。
空治 でしょ。今の落語家って、自分で言うのもなんですが、みんな真面目なんですよ。そうじゃないと仕事が回ってこないし、酔っ払って舞台に上がるなんて言語道断。だからハプニングとはいえ、“芸人っぽい芸人”を経験できて楽しかったです。
そもそも、誰かが何らかの事情でドタキャンした結果、急にお呼びがかかることって、僕らの世界ではままあることなんですよ。言ってみれば“代わりがきく”残酷な世界。代わりの人がウケたら、今度からこっちの人でいいや、ってことにもなるわけですから。
だからなおさら、「誰かいないか?」となったときに、いちばんに名前が浮かぶような、いざというときに頼られる芸人でいたいんです。声をかけてもらったからには、全力で応えたいと思っています。
