オリコンチャートはなぜいまだに影響力を持つのか
山口 このジレンマを抱えたまま複数枚売りに血眼になるのは、日本ではいまだに、シングルCDの発売週での売上げ枚数推計であるオリコンチャートが、社会的な影響力を持っていることが理由です。楽曲の人気を指標化するのだとしたら、今なら例えばYouTubeの再生回数の方が、CDの売上げ枚数よりはずっと、ユーザーの嗜好を表すかもしれないという時代じゃないですか? ユーザーの支持って、楽曲だったら聴く回数ですよね? オリコンは「所有」に関するランキングで、「利用」の観点が無いんですよ。
伊藤 そうですね。そういう僕も、随分とオリコンさんにはお世話になりましたが(笑)。でも、いまはbillboard JAPANとかRUSHとか、オリコンとは違う指標が出てきましたしね。
山口 J-WAVEの「TOKIO HOT 100」とかiTunes Storeのランキングとか、他にも面白いチャートはあります。特にRUSHは、発売前からユーザー動向がわかるから非常に面白いですね。でも、誰でも知っていて、テレビや新聞で掲載されるのはオリコンチャートなので、レーベルや事務所は、オリコンチャートを目標にせざるを得ない。
伊藤 まぁ、でもアレだけオリコンがアイドル・チャート化してしまうと、さすがにアイドルではないアーティストの心情的な面でのオリコン離れは顕著になってきましたけどね。確かにレーベルや事務所にとっては、いまだに無視はできない存在ですけど。
山口 新人アーティストをTVの歌番組にブッキングしようとすれば、局のプロデューサーから「オリコンは何位?」ってプロモーターは訊かれます。「10位以内になったら出演させてもいいかもね」と言われれば、そこを頑張らざるを得ない。TV側の怠慢でもあるのですけれど、そんなジレンマを逆手に取って、秋元さんは誰でもわかるように可視化してしまった。オリコンチャートはこうすれば上げられるよと。だから、次のステージに進むしか無いというところになりましたね。
伊藤 それで、もうネクスト・ステージは始まりましたね。
路面電車の無人駅に座る制服女子の姿が浮かぶ
山口 それにしても、この「夏のFree&Easy」は、思い切りのよい楽曲ですね。ど真ん中に速球を投げましたって印象。
伊藤 楽曲的にはストレートなアイドル歌謡ですし、歌詞の内容も王道の恋愛ソング。ただ、サビの「夏だからやっちゃおう」「水着より開放的に」は“流石”っていうキャッチーさ。デビュー当時はAKBグループとの差別化を図って、ちょっと変化球を投げていましたけど、ここに来て「やっぱこれだね!」と開き直った感じ。王道&キャッチーでAKB超えが見えてきた感じですね。
山口 なるほど。この曲の「妄想分析」は?
伊藤 ストレート過ぎるアイドル曲なんで浮かばないかなぁ~、と思ってましたけど。意外とアイドルらしさとはかけ離れたところで妄想キマシタ。
路面電車の無人駅、制服女子は真夏の太陽に焼かれたベンチに座る。4つ並んだベンチの後ろには大きな化粧品のポスター広告があり、そこに映ったモデルの冷めた視線が制服女子の背中を見下ろした。残念なくらい日陰は制服女子を避けている。彼女は鼻と顎にサイダーのような汗をかき、瞳は太陽から逃げるように俯いている。
制服女子は3年前から恋をしている。誰にも告げずに恋をしている。そして、恋をしていることを、ずっと後ろめたいと感じている。友達に対しても、親に対しても、2つ年上の姉に対しても、恋の相手に対しても。後ろめたいと感じてしまう理由は自分でも良くわからない、ただ「自分なんかが……」という言葉を借りるしかない。
制服女子はビキニを着たことはないし、男子に告白をしたこともない。電車はまだ来ないし、他に電車を待つ人もいない。そして今度は、千匹の蝉が制服女子の背中を責めたてる。
山口 古式ゆかしき女学生ですね。乃木坂46フォロワーなイメージです。
乃木坂46「夏のFree&Easy」
ソニー・ミュージックレコーズ 2014年7月9日発売
初回生産限定盤Type-A 1,528円(税抜・以下同)、初回生産限定盤Type-B 1,528円、初回生産限定盤Type-C 1,528円、通常盤 972円
■乃木坂46は、2011年8月に誕生したグループ。グループ名は、所属レコード会社の所在地にちなむ。今回のシングルでは、17名の選抜メンバーをフィーチャー。14年4月からSKE48と乃木坂46のメンバーを兼任する松井玲奈の参加も話題を呼んでいる。
■「夏のFree&Easy」作詞/秋元康 作曲/井上トモノリ 編曲/橋本幸太
■オフィシャルサイトURL http://www.nogizaka46.com/
【動画サイト】
「夏のFree&Easy」
URL https://www.youtube.com/watch?v=JlemRH28Ydw
2014.06.30(月)
文=山口哲一、伊藤涼