ドイツ人には理解不能なAKB48のブーム

山口 マスメディアに出演しない「地下アイドル」がいつの間にか「ライブアイドル」って言われるようになりましたが、最近は、TVによく出る芸能事務所所属のアイドルと、インディペンデントに活動するライブアイドルの区別も曖昧になっている印象があります。そんな中で、乃木坂46は、昔ながらのアイドルの匂いがするグループですね。

伊藤 なんだかんだ巨大になったAKBのその力を借りて、上ってきたグループですからね。インディペンデントのような地道な活動はしていないですよね。“公式ライバル”という肩書をもらって、テレビでもすぐに冠番組もらって。言い方悪いですけど、数多い雑草アイドルと比べたら“生まれながらのお姫様アイドル”のようなグループですよ。メンバーそれぞれは、そこに至るまでに苦労している人もいるとは思いますが。

山口 そういえば、最近、ドイツで84万部出ている硬派カルチャー誌「NEON」から取材を受けました。日本のポップカルチャーについてで、何故、AKB48が人気なのか知りたいという内容でしたよ。

伊藤 どう説明したんですか?

山口 総選挙などの細かい仕組みは、AKBマニアの評論家、濱野智史さんを紹介して、答えてもらいました。いい加減なこと言えないので(笑)。僕は、概観的なお話をしました。日本のアイドルファンは、完成品ではなくて、プロセスを楽しんでいるのだと説明したら、不思議な顔してました。ドイツ人の感覚だと、完成された美しい作品を好むのが普通だと。

伊藤 でしょうね。

山口 歌やダンスが上達していくプロセスに感情移入をしながら楽しむという日本のアイドル文化は、やはり特殊なのかなと思わされました。それほど可愛くないし、歌もダンスも上手くないけど、一生懸命だからセンターを取らせてあげたいと、せっせとCDを買うファン心理は、実は僕も本音では理解できないところがあります(笑)。

伊藤 海外のクリエーターとコライトするときに、必ず「日本で一番売れているアーティストはだれだ?」って聞かれるんですよ。そこでAKBのMVを見せると、もれなくハテナ顔されますよ。そして、シングル出す度に150万枚くらいCD売れてるよって言うと、声を裏返して「ワッッッツ!!!!!!」ってなります(笑)。

AKB商法は日本の音楽界の矛盾を可視化した

山口 CDをグッズ化した複数枚購入を誘発したAKB商法は批判も多いですが、伊藤さんのご意見は?

伊藤 AKBグループは握手券や投票権を売っているんであって、音楽を売っているんじゃない! そう言う声は良く聞きます。たしかに何百枚もCD買って、投票権だけを抜いてCDはポイッするファンは沢山いるでしょう。あのやり方だったら当然起こることだし、音楽を愛するミュージックマンからしたら、CD聴かずに捨てるなんてファ○ク以外の何物でもない。御もっとも。でも、個人的にはあのやり方に凄く感謝しているんです。それまでだって散々、CDに販促要素をわんさか付けて売り上げ枚数を稼ぐアーティストは沢山いたんです。そして、あの手この手でチマチマと得点を稼ぎ、チャートとイタチゴッコをしていたんですよ。でも、AKBグループが「エイッ!」ってやってくれた。「あれやっちゃマズイでしょ!」ってことをやって、悪役を一手に買って出てくれた。おかげで二の足を踏みまくっていた音楽業界に、「この道はここまで!」って気づかせてくれて、「さぁ、つぎの道を見つけましょう!」って段階にまで進めてくれた。

山口 なるほど。ポジティブなとらえ方ですね。僕も似たような感覚です。そもそも「複数枚購入を誘発」するということは、従来から行われていました。ジャケットを何パターンもつくったり、DVDの種類を変えたり、知恵を絞ってやってきたのを、握手券という形でわかりやすくしちゃったんですよね。本来は楽曲を広めたいのだれど、売上や枚数という目に見える実績も欲しいというジレンマがあることが「可視化」された。

伊藤 これもガラパゴス日本が生んだ面白い所だと思っていますよ。CDの握手券化も、今のアイドルの存在も、そしてそのジレンマさえも。

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2014.06.30(月)
文=山口哲一、伊藤涼