星野リゾート 界 松本(前篇)
週末やちょっとした休日に、非日常の過ごし方ができるのが日本旅館に泊まる旅。温泉を備えた和の宿の魅力を再発見し、楽しむための心得「旅館道」を紹介していきます。
「和心地」な温泉旅館をコンセプトとする星野リゾートの「界」と、「現代を休む日」をコンセプトにした和のリゾート「星のや」を巡りながら「旅館道」を追求するシリーズの第2回は、工芸で有名な松本の和モダン宿「星野リゾート界 松本」で「13通りの温泉三昧」です。
旅館道その1
「建物自体がアートな非日常の空間は、身を置くだけで楽しい」
民芸家具や「クラフトフェアまつもと」など、ものづくりで有名な松本。新宿から特急に乗ること2時間半で到着し、そこからタクシーで約15分の浅間温泉にあるのが和モダンで意匠の限りを尽くした宿「界 松本」だ。
土壁の車寄せから 額縁のようにも見える入り口をくぐると、玄関までのアプローチのモダンなガラス屋根と石畳とのコントラストに目が引かれる。ここがまずは、日常とひとときを過ごす旅館との結界のようでもある。
玄関の扉が開くと、白檀の香りと雪月花の額縁に迎えられ、そこからいきなり吹き抜けのドーム型大天井のホールが続く。ここまでで、既に非日常な空間に驚かされること間違いなし。
この「界 松本」は、現代建築のなかで和のモダンを追求する建築家・羽深隆雄氏が手掛けた建物そのものが、大きな魅力の一つだ。驚かされるのは空間デザインだけではない。和を基本にした自然素材がベースながら、あちこちにまるで仕掛けのような意匠の工夫が凝らされている。非日常に身を置く楽しみと「こんなところにこんな細かいデザインの工夫が!」と館内を見て回るだけでも飽きない。
右:職人が木ゴテで仕上げたスサ入りの土壁はアート作品のよう。
例えば、柔らかな光が浮かぶようなホール天井は、和紙に貝殻をつぶした顔料をクシ引きで塗った雲母刷り、一面が土のアートのような廊下の壁はスサ入り天然土壁、料理茶屋の入り口は木製の美しい組子障子、そこかしこの廊下や天井に流れるような絵柄を描くのは江戸唐半の流れをくむ江戸墨流しといった具合。蘊蓄が分からなくても、凝りに凝った造りにいちいち立ち止まって見入ってしまうほど。
右:廊下を飾る江戸墨流しは、伝統の手法がモダンに映える。
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2014.06.28(土)
文=小野アムスデン道子
撮影=深野未季