「空気が読めない」登美子の言動にザワザワ…
登美子の言葉は、これまで息子たちを戦地に送ってきた多くの母親たちが胸にしまってきた言葉だったはずだ。登美子の言動はいつも周りの雰囲気を壊すもので、いわゆる“空気の読めなさ”を発揮しているが、だからこそ力強くまっすぐに気持ちが伝わってくる。
登美子は嵩の望むような温かな優しい愛情を与えることはできなかったが、彼に対する愛はとても大きく強いものだったのだろう。
小さい頃から自分勝手な登美子に振り回されてきた嵩だが、好きな絵や漫画への情熱が途絶えないところや、長年幼なじみののぶを想い、支え続け、やっと成就させたところを見ると尋常ではない芯の強さを感じる。

嵩は基本的に物静かで、登美子のように派手な行動で周りをかき回すことはないが、うちに秘めているこの“強い”部分は彼女から譲り受けたのかもしれない。
どこから聞きつけたのか、突然のぶの家にやってきた時はホラーさながら背筋が凍ってしまったが、登美子はいつも嵩の人生の大切な時に関わってくる。彼女のおかげで、嵩は三星百貨店に採用され、安定した収入を得られるようになった。
一方で、「漫画家になりたい」という嵩の夢を「大の男がやることじゃないでしょう?」とバッサリ切り捨てるあたり、“こうあるべき”という理想を押し付ける性格は相変わらずなようだ。
愛情深い人であることは間違いないが、トラブルメーカーになることも多い登美子。しばらくはドキドキしながら嵩とのぶの生活を見守ることになりそうである。

2025.08.08(金)
文=久保田ひかる