松嶋菜々子vs. 戸田菜穂のマウント合戦
再婚後、登美子は嵩たちと8年間連絡を取ることはなかったが、突如として柳井家に出戻り。嵩と千尋に愛情を注いでのびのびと育てていた伯母の千代子(戸田菜穂)は、何事もなかったかのように振る舞う登美子に苛立つ。
登美子も登美子で、再婚相手の家で身につけてきたお茶を点て、「お作法どおりじゃなくても、結構ですよ」と申し訳なさそうな態度を見せるどころかマウントを取るようなことをしてくるものだから、千代子も黙ってはいられずに「いつまでいらっしゃるがですか?」と応戦。2人に挟まれ、恐縮している女中のしん(瞳水ひまり)がかわいそうになるくらいの火花の散らしあいだった。

さらに登美子は「お茶、お花、お琴、一通りのことは身につけました。それでも、女が1人で生きていくのは大変なんですよ。それに、私は嵩のことが心配なんです」と話す。8年間も連絡をよこさなかったのに突然何を……という気持ちになるが、背筋をスッと伸ばして真剣な表情を見せる登美子の言葉には嘘があるように思えないから不思議なものだ。
また、嵩が徴兵される時には東京で会うが、軍隊でやっていける自信がないと言う嵩に、登美子は一切の遠慮なく「そんなの無理に決まってるでしょ」と切り捨てた。
嵩はすがるように「もっとほかに言うことないの?」と返していたため、背中を押してほしい気持ちがあったのだろうが、登美子はそんなのお見通しよと言わんばかりに「武運長久をお祈りします、とでも言ってほしかった? それなら言うわよ」とキッパリ。どこまでも母親である前に“強い女”なのであった。
だが、嵩が御免与町で迎えた出征の日に登美子はその場に駆けつけ、「死んだらダメよ!」「絶対に帰ってきなさい! 逃げ回ってもいいから。卑怯だと思われてもいい! 何をしてもいいから! 生きて、生きて帰ってきなさい!」と涙ながらに声を張り上げた。
2025.08.08(金)
文=久保田ひかる