新人作家へのアドバイス
城戸川 デビューは作家人生のスタートに過ぎなくて、ここからが本番だと思っているのですが、これまでを振り返られて、やってよかったことや、逆にやめてよかったことはありますか。
森 よかったのは、マイペースに書き続けたことです。執筆ペースは人によって全く異なります。自分と周りとを比べて焦り苦しむ人をたくさん見てきました。私は書くのが遅い方なのですが、自分なりのペースを守ってきたことは良かったなと思っています。やめてよかったのは、エゴサーチですね。
城戸川 ああ、毎日やっています……。
森 最初はどうしても気になりますよね。私も以前は新刊が出るたびに検索していました。でもあるころから、感想を書き込んでくださる方もたくさんいらっしゃるけれど、自分の胸のなかに秘めている方のほうが多いはずだと考えるようになったんです。ネット上の声が全てではないということを頭の片隅に置いておくとよいのではないかと思います。
城戸川 実は『高宮麻綾の引継書』は今年の秋に続編の刊行が決まりまして、今まさに書いているところなんです。
森 とても楽しみです。私の場合、二作目が一作目の続編だったので、デビューの余熱で書けた気がするんです。小説家は三作目が勝負だ、なんて言われますし、デビューから少し経ってから、つぎに何を書くのかも重要かもしれません。ただひとつお願いしたいのは、二作目は一作目を超えていってください!
城戸川 頑張ります! 最後に、私にアドバイスを頂けますでしょうか。
森 作家人生、調子の良いときもあれば、悪いときもあるはずです。特に、思うように書けないときに締切が控えていると本当に苦しい。何回書き直しても納得がいかず、結局最後まで良いと思えないまま締切が来ることもあります。でもなぜか、苦労した作品ほど、評判が良かったりするんです。もしかしたら苦しみぬくことで、文章にえもいわれぬ味わいが出るのかもしれません。私はそれを「苦しみ汁」と呼んでいます。調子が悪いときは「苦しみ汁を出すチャンス」と前向きにとらえて乗り切っていただきたいです。逆に、調子が良いと油断してしまいがちなので、気をつけてくださいね。
城戸川 苦しみ汁を味わえるように精進します。今日は本当にありがとうございました。
(二〇二五年三月十五日、紀伊國屋書店新宿本店にて)

森絵都(もり・えと)
一九六八年生まれ。近著に『獣の夜』等。第二十八回より松本清張賞選考委員を務め、今回をもって退任。
城戸川りょう(きどかわ・りょう)
一九九二年山形県生まれ。山形県立山形東高校卒業。東京大学経済学部卒業。商社勤務。
写真◎今井知佑


高宮麻綾の引継書
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2025.07.27(日)
文=森 絵都,城戸川りょう