●違う自分になったって、いいじゃない。“大人にも沁みる”メッセージ

――象の鼻が花になったり、ライオンのたてがみがドーナツになったり、元の姿からは変わってしまうんだけど「こわがるどころか みんなが あつまって きちゃったよ~」と微笑む。「代わり」をマイナスではなくプラスに転化させる発想も素敵です。
みき オチをどうしよう? ってなったときに、おとしたものが見つかって、もとの動物の姿に戻るというオチも考えたんですけど、なんか姿が変わった方がいいなと思って。
いま私、アメリカに住んでいるんですが、こっちって本当にいろんな人種の人がいる。幼稚園でも、みんな目の色も肌の色も違う。なんなら喋る言語も違うんだけど、誰もそんなことは気にしてなくて、すっごい仲良しなんですね。幼稚園の先生とか大人も、キャミソール1枚でタトゥーだらけの人が当たり前にいる。
大人が作らなきゃいけない世界ってこれだよなー。どんな姿でも素敵だし、みんな違っていいよねって。アメリカに来て日々感じているので、こういうオチが自然に出たのかもしれません。

ひろた 僕も今、お話を聞いていて、違う自分になるというメッセージがすごくいいなと思いました。僕もみきちゃんも、本来はお笑い芸人になりたかったはずだけど、どこかで一度それに区切りをつけた。でも、失ったものがあることによって、僕は絵本を作るようになったし、みきちゃんもぽるぽるふぁみりーを始めた。そう考えると『おとしちゃったぞう』は、すごく僕たちっぽいお話だなって、すごく腑に落ちました。
みき 確かに!
――若い頃は誰しも「こうあるべき自分像」を目指すものですが、現実はそういかなかったりもする。でも、それとは違う今の自分も悪くない。むしろ素敵じゃないかと、この絵本の動物たちは教えてくれる。大人にこそ沁みる絵本な気がします。
ひろた 僕も年齢を重ねて、10代、20代のときは当たり前にできてたことが今は全然できない、みたいなこともあるんですけど、それはそれでいいというか。
「喪失」というより「進化」してる感じもあって。この絵本にもそういうメッセージが意図せず入った気がします。

――最後に、おふたりが思う「絵本の魅力」とは?
ひろた 絵本って、小説とか漫画とか他の表現に比べると余白が多い。文章も短いし、言葉も平易でシンプルだからこそ、これで完成しないというか。読んで、遊んで、完成する。
読み聞かせ会をすると、めちゃくちゃ喋り掛けるんです。いろんな反応が返ってくるのが楽しい。絵本を通して、ただ話すのとは違う、コミュニケーションが増える。それが絵本の魅力だなと思いますね。
みき 私も「読み聞かせ」というのは、絵本ならではの魅力だなと感じていますね。読み方も解釈も人によって個性が出るし、文字が読めない子供でも、毎日読み聞かせていたら耳で覚えて、だんだん自分で声に出して覚える。そうして気が付いたら、長女が次女に読み聞かせをしていて……。家の中で愛情が繋がれていく姿が素敵だなって。絵本のパワーをすごく感じたし、娘たちがいつか結婚して、子供が生まれた時に、この絵本を読んでたら、私はたぶん泣いちゃいますね(笑)。

おとしちゃったぞう
え・ひろたあきら ぶん・みきちゃん(ぽるぽるふぁみりー)
定価 1,650円(税込)
303BOOKS
ひろたあきら×ぽるぽるふぁみりー・みきちゃん、初めてのコラボ絵本! 動物がおとしちゃったあれ、いっしょにさがしてくれない? おうちの中から、動物にぴったりなものを探してみよう。子どもの“見立てる力”をぐんぐん育て、家族で遊べる参加型絵本です。

2025.07.17(木)
文=井口啓子