この記事の連載

 映画『キャンドルスティック』で、共感覚という不思議な感性を持つヒロイン・杏子を演じ、物語を彩っている俳優・菜々緒さん。ミステリアスで繊細な役柄への向き合い方や、コメディ作品で見せた意外な一面、そして未来への展望まで。内面に深く向き合いながら表現を磨く菜々緒さんの今に迫ります。

共感覚という「孤独」を抱える役に寄り添う

──今作『キャンドルスティック』ではFX市場で一攫千金を狙う阿部寛さん演じる野原の恋人役、杏子を演じていらっしゃいます。数字を色で感じるという「共感覚」を持つ役どころは難しくありませんでしたか?

 そうですね。まわりの人に理解されにくい特殊能力である共感覚を持つゆえの孤独だとか、寂しさみたいなものが、杏子というキャラクターを形成するうえで大切な点だと感じたので、まずはそこに寄り添えるように努力しました。10年来の友人に「共感覚」を持つ方がいるんです。その方に話を聞いたことによって、杏子というキャラクターへの理解をより深めていけました。

 杏子はあまり多くを語らない女性なので、セリフ回しはもちろん、米倉(強太)監督やスタッフの方たちと相談しながら表情も工夫しました。彼女のうちに秘めた力を徐々に出していくことによって、この物語のスピード感を後押しできたんじゃないかなと思っています。

──野原と出会うことで杏子の人生が動き出します。阿部寛さんとはどのようにコミュニケーションを重ねていきましたか?

 阿部さんとは言葉にせずとも自然と同じ方向を向いて撮影ができている感覚があったので、何度もディスカッションを重ねることはしていないんです。ただ、今回はFXやAIに関連する専門用語を使うことが多かったので、難しい部分に関しては積極的に監督たちに相談して理解を深めるようにしていました。

──映画の舞台である2019年に比べて、現在はAIがもっと一般的になりました。菜々緒さんはAIを暮らしに取り入れていますか?

 俳優仲間の中には、AIに台本を読み込んでもらって、より物語への理解を深めるのに使ったり、物語の背景となる資料を集めたり、いろいろ活用している人もいるみたいなんですが、私はあまり使いこなせてなくて。自分の写真をアニメ風にしてもらうのを試したくらいで(笑)。今後はもう少し活用してAIに仕事をアシストしてもらえたらいいな、と思っています。

2025.07.06(日)
文=高田真莉絵
撮影=深野未季
ヘア&メイク=吉田真妃
スタイリング=倉田 強