手に負えなかった反抗期、最愛の弟は戦死…朝ドラ『あんぱん』のモデルになったやなせたかしの壮絶すぎる青年時代〉から続く

 “アンパンマン”の生みの親であり、朝ドラ『あんぱん』のモデルにもなったやなせたかしさん。ドラマでは、のちに妻となるのぶ(小松暢さんがモデル)と幼なじみという設定になっていますが、実際のやなせさんの初恋はどんなものだったのでしょうか。

 やなせさんの著書『わたしが正義について語るなら』(ポプラ社)より、初恋の顛末を語った箇所を紹介します。(全4回の3回目/最初から読む

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汽車で出会った女の子に一目惚れ

 小学校を卒業後、ぼくは県立城東中学(現高知追手前高校)に進学します。城東中はぼくが入学した時に、鉄筋コンクリートに改装されて、当時としてはモダンな校舎でした。シンボルの時計台は、現在の高知追手前高校に引き継がれています。

 汽車通学で定期を見せて改札口を通るのが嬉しくてね。なんか、いっぺんに大人になったような気分でした。

 そしてよくある話ですが、同じように汽車通学をしている女学生のひとりに恋をしてしまったのですね。一目惚れで、駅で会えるのが嬉しくてたまらない。遠くから見て胸をときめかせているだけですが、中学1年生というのはどうしようもありませんね。朝から晩までその女の子のことばかり考えて、まったく勉強が身につかない。困ったことになりました。

 思春期というのは実に危険な年頃ですね。今から考えてみれば精神的には未熟なのだけれど、性に目覚めてしまう。健康な男子なら当然のことですが、それが勉学の妨げになります。ぼくはその頃からどんどん成績が悪くなって、学年200人中、50番から70番のあたりを上下していました。

2025.07.01(火)
文=やなせたかし