ふたりは語るより見せる能力のある俳優
──ウナ役のエリーン・ハットルと、クララ役のカトラ・ニャルスドッティルのお芝居はいかがでしたか?
ルーナソン監督 エリーンもカトラも、語るより見せる能力のある、素晴らしいアーティストでした。
監督という仕事は、キャスティングからはじまります。
私が俳優の中に見つけようとするのは、その俳優がいかにセリフ以外で感情や状況を伝えることができるか、ということです。
オーディションには多くの俳優が参加してきましたが、「セリフを使わず、表現と演技力だけで相手に伝えられる」スキルは、エリーンとカトラが突出して優れていました。
撮影に入る前にすべてのシーンをリハーサルし、ひとつひとつのシーンを話し合ってセリフを決めていきましたが、セリフが変わっても柔軟に対応してくれたふたりは実に素晴らしかった。私がこうやってほしいという感覚を見事にキャッチし、美しいパフォーマンスをみせてくれたと感謝しています。
ただ、演技はしすぎると「嘘」になってしまいます。ふたりには、ウナとクララの体験を自分の体験に置き換えてそれを表現してもらうという難しいリクエストも出しました。
もちろん、実際に恋人の死を体験している必要はありません。俳優として学んだテクニックを使えば、まったく同じではなくとも、自分の人生のなかの何かに関連付けて感情を表現することができるはず……。その期待に、エリーンとカトラは見事に答えてくれました。ぜひスクリーンでふたりのお芝居を観てほしいです。

タイトルに詩情を込めた
──原題はアイスランド語で「光の屈折」という意味です。このタイトルにはどのような意味を込めたのですか?
ルーナソン監督 光の屈折は、光がプリズムを通過する時に見られるものです。虹もそう。そして、感情も同じだと思います。
英題をつけるときに、原題をそのまま英訳して「Refraction of Light」とすると硬すぎて詩的に感じられなかったので、詩的なイメージを表現するために、「When the Light Breaks」とつけました。
──日本語の邦題タイトルについてはどう思われますか?
ルーナソン監督 残念ながら私は日本語がわからないので、判断はできません。でもきっと、私のイメージを生かした詩的なタイトルにしてくれたのだろうと信じています。
『突然、君がいなくなって』(原題:Ljósbrot)
6月20日(金)Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
STORY
アイスランド・レイキャビクの美大に通うウナには、大切な恋人ディッディがいる。しかし、二人の関係は秘密だ。彼には遠距離恋愛をしている長年の恋人、クララがいる。ある日、ディッディはクララに別れを告げに行くと家を出た後、事故に巻き込まれ帰らぬ人となってしまう。誰にも真実を語ることができないまま、ひとり愛する人を失った悲しみを抱えるウナ。そんなとき、何も知らないクララが現れて――。
STAFF&CAST
監督・脚本:ルーナ・ルーナソン/出演:エリーン・ハットル、ミカエル・コーバー、カトラ・ニャルスドッティル、バルドゥル・エイナルソン、アゥグスト・ウィグム、グンナル・フラプン・クリスチャンソン/アイスランド=オランダ=クロアチア=フランス/2024/80分/配給:ビターズ・エンド/© Compass Films , Halibut , Revolver Amsterdam , MP Filmska Produkcija , Eaux Vives Productions , Jour2Fête , The Party Film Sales

2025.06.23(月)
文=相澤洋美