【あの一杯】ボーイスカウトで初めて飲んだブラックコーヒー

無類のコーヒー好きで、取材時も傍らにコーヒーを置いていた石崎さん。ボーイスカウトに所属していた中学生の頃、山で飲んだコーヒーが今でも忘れられないという。
「『日本ジャンボリー』という、4年に1度開催される全国各地のボーイスカウトが集まる大きなイベントがあって。朝、山に到着してすぐ鎌を持たされて、ひたすら背丈ほどもある草刈りをしてからやっとテント設営……もちろん風呂にも入らずトイレも穴を掘ってする、というような本気の野外活動にいそしむ7日間を過ごしたことがありました。
山なので夜は真っ暗になるんですけれど、ふとあたりを見たら……ランタンやテントに灯る明かり、火――いろんな光が重なって、おぞましいほどの幻想的な世界が広がっていました。そんな灯りのなかでボーイスカウトの隊長がコーヒーを淹れてくれたんです。ボロボロのアルミのカップで。
『世の中にこんなにおいしいものがあったなんて! なんで誰も教えてくれなかったんだろう』と感動した! 今思えば当時はコーヒー牛乳くらいしか飲んだことなかったし、コーヒーの味の違いがわかる年齢ではなかったと思うけど、あの時の味は忘れられないです。特別いい豆とかではなく、インスタントコーヒーだったと思うんですけどね。“大人のたしなみ”に触れた感動もあったのかもしれません。おかげで今では毎日必ずコーヒーを飲むようになりました」(石崎さん)
【あの曲】『JUNK LAND』に背中を押された

お母さんの影響を受け、幼少期からデヴィッド・ボウイをはじめ洋楽を聴いてきた石崎さん。「大切な一曲は?」という問いに洋楽を選ぶのでは、という予想に反して選んだのは、1997年にリリースされた玉置浩二さんの『JUNK LAND』。
「昔から玉置さんが好きで、元気がない時、悩んでいる時に聴いては救われてきました。『JUNK LAND』に出合ったのは大学生の頃です。それから少し経って、20代の後半で大学時代に組んだバンドのまま音楽を続けていくか、シンガーソングライターとして1人でやっていくか、悩んでいた時期がありました。
そんな時にたまたまこの曲を聴いて。もともと何度も聴いていた曲なのに、この時だけ今までとは違うインスピレーション、違う解釈で聞こえてきたんです。『あ、俺、こういう風になりたい』と思った」
石崎さんがソロデビューを決心した理由のひとつに音楽プロデューサーの須藤晃氏との出会いがある。奇しくも、この曲は玉置さんと須藤氏がともに作詞を担当している。
「高揚感のある曲調と歌詞に『お前、行けよ!』って背中を押されているように感じて。この曲に描かれている主人公は等身大で、気持ちがすっと自分の中に入ってくるんですよね。言葉選びがこんなにも素直で、それでいて深みがあって。今でもテンションを上げたいときに聴きますし、自分の作品作りにおいても指標になっています」
待ってる人の その前で
泣いてる人の その前で
困ってる人の その前で
迷ってる人の その前で
笑ってる人の その前で
祈ってる人の その前で
遊んでる人の その前で
愛してる人の その前で
心配ないって言いたくて こんなボロボロのまんまで
(『JUNK LAND』歌:玉置浩二 作詞:須藤晃・玉置浩二 作曲:玉置浩二)
2025.05.20(火)
文=河西みのり
撮影=釜谷洋史