NCTジェヒョンのスクリーンデビュー作品
――主演をつとめた、NCTのジェヒョンさんのことも教えてください。ジェヒョンさんにとって映画デビューとなる作品です。
イ・ユンソク これは他でも言っているんですが、ジェヒョンさんのキャスティングに関しては、自分が名前をあげたわけではなくて、会社の意向ですでに名前があがって、そこから彼のことを知っていきました。彼は芝居の経験は少なくて、撮影したドラマも最近、放送されはじめたばかりなんです。なので、MVを見たり、バラエティやYouTubeなどでトークをしている部分を見て、彼の人となりを知りました。
実際に顔合わせの段階で、部屋に入ってきた彼を見たとき、もちろんアイドルをやっているときのようなかっこいい姿ではあったんですが、年相応な青年だと思いました。普段の生活の話をしたりしてみて、ミステリアスなところもあるけど、人の痛みが見える主人公のジュヌを演じてもらえるなと実感したし、そういう表現ができる人だと思えました。そして、ジェヒョンさんがキャスティングされたことで、この映画が実際に動き出した部分があるので、感謝しかありません。

――現場ではどんな人でしたか?
イ・ユンソク マイペースで動じないところがあります。アイドルとしていろんな経験をしてきたということも関係あるのかもしれません。スタッフさんやファンの方にもフレンドリーで、働きやすい環境を作ってくれました。気配りも素晴らしいし、自分より随分年も下だけど、尊敬できる人だなと思いました。
――監督はもともと日本で映画を学んでいたそうですね。どのようなきっかけがあったのでしょうか。
イ・ユンソク 自分が日本に映画を学びに来たのは2004年で、韓国映画が上り調子になっていたころでした。ただ、その頃は、韓国では映画を作るときに標準契約書が交わされるような時代ではなかったんですね。その頃、たまたま映画祭で日本の監督と話をしたときに学校を紹介してもらって、当時働いていた会社をやめて日本に留学しました。もともと自分は日本文学を専攻していたので、成瀬巳喜男や小津安二郎の映画をたくさん見ていたんです。大学生の頃も、岩井俊二監督の『Love Letter』や是枝裕和さんの作品を見ていたこともあり、日本で勉強してみたいという気持ちがあったんです。
――最近、韓国の映画監督にインタビューをすると、日本映画への関心が強くなっている印象がありますが、イ・ユンソク監督も感じるところはありますか?
イ・ユンソク 今の40代くらいの韓国の監督は、1990年代に日本の文化が解放されて、その頃に青春を過ごした方たちが多いんです。自分もその世代ですが、そんなことも関係しているのではないかと思います。特に、少し年齢は上になりますが、ポン・ジュノ監督も日本のアニメや漫画が大好きですよね。

それと同時に、今の韓国の映画業界は商業作品に集中していることがあって、インディーズ映画が弱いんですね。最終的には映画監督も生活していかないといけないので、インディーズでデビューしても商業監督にならないといけないということがあります。
日本は今年もカンヌ映画祭で、コンペティション部門に『ルノワール』が入っていますよね。濱口竜介監督にしても、黒沢清監督にしても、国際的に評価される日本映画は、商業的なものではない作品が監督主導で作られているなと思います。韓国も監督主導のものもあるけれど、基本は製作者主導だから、そういう違いが生まれてきているのだと思います。
2025.05.15(木)
文=西森路代