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 漫画家・東村アキコと恩師の関係性を丁寧に描いた自伝的作品を映画化した『かくかくしかじか』にて、主人公の人生が動き出すきっかけを作る役を演じる、見上愛さん。瞬く間に脚光を浴びる俳優になった見上さんの「恩師」について伺いました。

「もともとは舞台の裏方志望」見上愛が演劇に興味を持った“きっかけ”は、2.5次元ミュージカル


「動物の世話をしながら1日16時間も勉強していた」

――今回出演されている『かくかくしかじか』は、東村アキコさんの人生を決定づける恩師との濃密な物語が描かれています。見上さんにも、恩師といえる方はいらっしゃいますか?

 はい! 本作で大泉洋さんが演じた日高先生みたいな人が主宰する学習塾に通っていたんです。先生が一人でやっている個人塾で、小学生もいれば、浪人生や、大人もいるような環境でした。本当に、映画の絵画教室に雰囲気がそっくりで。私の先生も、厳しい言葉をかける方ではあったんですが、一人一人のことを大切に考えてくれる人でした。

 偏差値だけで判断をせずに、その子がどんなことが得意なのか、どんなことが向いているのか真剣に考えながら、一緒に志望校や将来の方向性を決めてくれて。その先生にはすごく感謝しています。大学に入学してからも夏休みの勉強合宿の手伝いに行っていました。

 中学生の頃に見た舞台がきっかけになり、演劇系の勉強がしたいと決めていたので、塾に通い始めた頃にはもう将来のビジョンが明確にできあがっていたんです。それも一般入試ではなく、AO入試で行くということまで決めていて(笑)。

 いわゆる一般的な受験勉強をしなくても合格する可能性があったのですが、先生には「勉強しなさい」とずっと言われていました。

――先生はなぜ、今のままでも合格できそうな見上さんに繰り返し「勉強しなさい」と言ったんでしょうか?

 将来、勉強しなくてもいい環境に身を置くことになったら、今後勉強することはないかもしれないから、今しなさいということだったんだと思います。

 先生の教えを守って、受験前は1日16時間ほど勉強していました。とにかく寝ても覚めても勉強ばかり。人生で一番勉強しましたね。今後あんなに机に向かうことはないと思います。私が勉強しているあいだ、先生もずっと起きて見守ってくれていたんです。嬉しかったし、頑張らなきゃ! という気持ちになりました。

――映画や小説になりそうなエピソードですね。まさに東村さんの恩師のようです。

 おいしいごはんも作ってくれて、すごくあたたかい方でした。限界を感じるほど勉強をするという経験を持てたおかげで、忍耐力がついたと思います。耐えなければいけないことがあると、先生と勉強した当時の状況を思い出します。

 あと、塾では先生が動物を飼っていて。私たち生徒は、動物のお世話をしながら勉強をしなきゃいけないんですよ(笑)。なのでマルチタスク能力や、集中力もつきました。

2025.05.10(土)
文=高田真莉絵
写真=佐藤 亘
ヘア&メイク=豊田健治
スタイリング=下山さつき