草彅剛主演で、2024年5月に公開された映画『碁盤斬り』(監督:白石和彌)。3月からフランスで上映され、アジア映画として異例の興行成績トップ10入りを果たす快挙を達成! 目の肥えたパリっ子たちの間で評判を呼んでいる。
同作の脚本を担当し、小説版『碁盤斬り 柳田格之進異聞』も時代小説好きから高い評価を得た加藤正人氏が現地を訪れ、その感慨を綴ってくれた。

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サムライ映画の格之進が、花の都へ
映画『碁盤斬り』が、3月26日からフランスで公開されている。身に覚えのない疑いをかけられた武士・柳田格之進とその娘が、囲碁を通じて人々との絆を得ながら、復讐を果たす時代劇だ。
自分の作品がパリで上映される。現地に飛んでいって、この目で見届けたいが、フランス語を話せないし、現地に伝手もない。どうしたものかと思っていたら、映画で囲碁監修を担当した囲碁棋士の高尾紳路九段はパリに知り合いがいて、現地での通訳を頼めるという。さらに、高尾さんの後援者で囲碁愛好家の道永幸治さんは、パリに20回以上行ったことがあるたいへんな美食家で、おいしいレストランをたくさん知っている。2人と一緒ならばどうにかなるだろうと思い立ち、4月1日から1週間の日程で花の都パリに行くことにした。

評判がよいのは、日本マニアの間だけ?
空港からパリ市内に到着すると、さっそく地下鉄の駅には、柳田格之進を演じた草彅剛さんと娘のお絹役の清原果耶さんの大きなポスターがあるではないか。

じつは『碁盤斬り』は北米でも上映が決まっている。アメリカでのタイトルは「BUSHIDO(武士道)」だ。フランスのタイトルは「LE JOUEUR DE GO」、 日本語で「囲碁の棋士」という意味だ。アメリカは侍の復讐アクション、フランスは囲碁の映画という意味合いが強い。フランスのポスターは柳田格之進と娘のお絹のデザインだから、父と娘のドラマを前面に押し出した宣伝になっている。同じ映画でもアメリカとフランスでは売り方がかなり異なっていた。
パリに入る前に、現地での評判がよいとは聞いていたが、日本びいきのコアなフランス人向けにひっそり公開されているのだろう、と思っていた。フランスには2万人ほどの囲碁人口がいると聞く。その人たちを中心とした限られた範囲での評判なのかもしれない、と。
だが、メトロの駅だけでなく、街中にも大きな看板が掲げられ、テレビでは頻繁に広告が流れていた。街の売店で買った映画のガイドブックの表紙も『碁盤斬り』。フランス全土の220スクリーンで大々的に公開されていると知って驚いた。
2025.04.30(水)
文=加藤正人