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響き渡った「ドンッ」という音の正体

 翌朝、ごつくてひんやりとした手が額に当てられて目が覚めました。気がつくと自分の周りに先生たちが集まっています。

 Mさんは高熱を出していました。

 昨日のあの女はなんだったのだ……必死に思い返そうとしても、記憶にモザイクがかかったようにぼやけて思い出せません。

 結局、その日は部屋で休むことになり、体育館から響く練習の音を聞きながらうつらうつらと時間を過ごしていると……バンッ! と、突然何かが窓にぶつかるような音が聞こえて飛び上がりました。

 フラフラと立って見下ろすと、あの管理人さんが長いモップで窓を掃除したあとでした。

 そうだ、あの管理人さんならあの女について何か知っているかも……Mさんは熱に浮かされた思考で、管理人さんに会いに一階まで降りていったそうです。

 手すりに手をつきながらロビーに降りると、モップとバケツを抱えて窓掃除を終えた管理人さんが玄関から中に戻ってくるところでした。

「あれ、君は風邪の子かい? どうしたの~?」

「あ、あの、部屋だと寝られなくて……ここで寝られないですか?」

「え、ロビーではダメだよ~、ええと、じゃあここの管理人室で寝ていなさい。私から先生たちにはうまく言っておくから」

 恥ずかしくなりとっさに女についての質問をごまかしてしまったMさん。気がつけば管理人室でその日の夜を過ごすことになってしまったそうです。

 なぜ自分はこんなところで寝ているのだろう……あの女やYくんの言動は現実だったのか? 全てがぐるぐると夢のように思えていたとき——。

 ドンッ。

 と、外から鈍い音が響いて目が覚めました。時間は夜中。管理人さんは慌てて外に飛び出し、周囲からは駆け寄ってくる先生や生徒たちの悲鳴がこだましました。

 Yくんが2階から落ちたのです。

 いえ、正確には同室だったNくんたちに窓から突き落とされたのでした。

 その後はYくんを近くの病院に連れて行ったり、Nくんたちを先に車で帰らせたりと大騒ぎでした。先生に頼んでも会わせてもらえませんでしたが、クラスメイトが聞いたところによるとNくんたちは「お姉さんを独り占めしたから落とした」と言っていたそうです。

2025.05.06(火)
文=むくろ幽介