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韓国ではあまり白いごはんを食べない

――「一汁一飯」ということでごはんものも多く紹介されますが、豆や雑穀、野菜をごはんに炊き込むレシピが豊富にあるものですね。

ナレ 白いごはんって、韓国ではあまり食べないかもしれません。白いごはんには麦を入れることも多いし。うちの祖母は「白米のままだと体によくない」という考えでした。必ず何かしらの雑穀や豆を入れる。漢方の考えが根付いていたようです。韓国人って「食べることは国力」ってよく言うんですけども、体調が悪いときはまず食べもので整えるんです。

――おお、もっと知りたいです。

ナレ うちの母は家族が夏バテしたとき、サムゲタンか牛骨スープを仕込み始めます。それでだめなら漢方薬に頼って、それでも良くならなければ西洋医療に頼る。韓国では「食欲がない」って、すごくよくないこと。夏に食べるビビン麺などは少し味が濃いめですが、食欲をそそる濃さ。そういうのを食べて、食欲が落ちないようにする。常に食欲のあることを基本にするのが、韓国の家庭のやり方だと思います。

――あと、韓国の炊き込みごはんは、作り方の上で日本よりもハードルが低い感じがしました。

ナレ 日本はまず出汁を用意して、それを冷ましてからお米に加え、味つけもしてから炊き始める。韓国は基本、水から炊くのでその分は手軽かもしれません。そしてヤンニョムジャン(合わせダレ)をかけて食べるので、味つけもいらないし。

――ヤンニョムジャンは日常のいろいろなシーンで使われるようですが、作る人の数だけレシピがあったりするんですか。

ナレ 基本的に材料はみんな大体一緒ですが、旬によって入れるものが変わるんです。春はノビルとナズナを入れることが多い。韓国人はこのふたつが大好きなんですよ、冬が終わる頃から市場にはノビルがたくさん出ます。

――ノビルを薬味的に使うんですね、おいしそうだなあ……。さて、ナレさんは4歳になるお子さんの子育て中でもありますが、「一汁一飯」スタイルは実生活でも活躍しているんでしょうか。

ナレ もちろん! 子どもができてから「自分が作りやすい」を最優先するようになりました。そうじゃないと、作り続けられない。余裕があるときはあれこれ作れますけど、仕事が立て込んだときは「ごはんと汁ものさえあればいい!」と考えてます。ごはんには何かしらの野菜か雑穀を入れて、汁ものにはお肉か魚介を入れれば、栄養的にもそれなりにいいですから。ごはんと汁、あとは海苔とキムチなんかがあれば、もうそれでいい。

――料理家さんにそう言ってもらえると、気が楽になる人は多いと感じます。

ナレ でもね、いくら簡単にしても面倒でしょうがないときってあるんです。そんな日は、もうみんなでアイスクリーム食べて終わり。そうすればうちの家族はみんなハッピー(笑)。たまに作らないときを入れて、翌日に「ああ、昨日は作らなかったな……」なんて反省して、また作っていく。そんな毎日です。

キム・ナレ

料理研究家、韓国・仁川出身。韓国料理をベースに、日本と西洋の料理を学んだバックグラウンドを交えて独自の料理世界を展開する。体にやさしい、穏やかな味わいの料理が注目を集めている。毎月開催の料理教室も人気。現在、4歳児の子育て真っ最中。
https://www.kimnare.com/


聞き手 白央篤司

フードライター、コラムニスト。おいしい手作りキムチの店が近所にあったことから韓国料理にハマる。好きな韓国料理はビビンバ。主な著書に『自炊力』(光文社新書)、『はじめての胃もたれ』(太田出版)など。4月に編著『はじめましての旬レシピ』(Gakken)が発売になる。

『一汁一飯 韓定食』

定価 1,870円(税込)
グラフィック社
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次の話を読む「汁物とごはんさえあればいい」キム・ナレさん直伝!心身を満たす“韓定食”レシピ《牛肉と大根の汁物&栄養ごはん》

2025.04.23(水)
文=白央篤司
撮影=平松市聖