この記事の連載
櫻井武晴さんインタビュー【前篇】
櫻井武晴さんインタビュー【後篇】
1年半前に脚本を書き上げたことで起きた悲劇「大阪万博は…」

――黒ずくめの組織は「名探偵コナン」シリーズ最大の謎でもありますからね。スタッフさんの反応が目に浮かぶようです。
そうですよね。『純黒の悪夢』は『業火の向日葵』の反省を踏まえてミステリー要素を抜き、キャラクター×アクション×サスペンスに挑戦した作品でもあります。
そして『ゼロの執行人』においては、『相棒』『科捜研の女』含めてこれまで書いてきた自分の色に一番近かったため、とても書きやすかった記憶があります。ただそのぶん内容が難しくなってしまったけど大丈夫だろうか……という想いがありましたが、今まで書いた作品の中で最も反響がありました。
セリフを一言も書いていない“あるシーン”がファンの語り草に

『緋色の弾丸』においては、まだ明かされていない秘密をたくさん持っている赤井家を描く大変さは勿論ありましたが、コロナで上映が1年延期になったことが何よりショックでした。しかもようやく上映されたと思ったら劇場が閉められてしまい、こんなことが起こるとは……と。
劇場版「名探偵コナン」は1年半前に脚本を書き上げておかなければならないスケジュールで動いているんです。本作は劇中でオリンピックに類似した「WSG-ワールド・スポーツ・ゲームス-」というものが登場するのですが、1年半後の世界がどうなるかわからない、と痛感した出来事でした。これを機に現実とリンクしたイベントをコナンで使うのはやめようと肝に銘じました。これを戒めにして、『隻眼の残像』においても2025年公開だからといって大阪万博を扱うのはなしね、というところから始まっています(笑)。
2023年公開の『黒鉄の魚影』は、青山先生と立川譲監督が考える灰原哀のコナンへの想いが初めて分かったことが記憶に残っています。というのも、クライマックスの水中シーンは脚本段階ではセリフを一言も書いていないんです。
――そうだったんですね! ファンの間では語り草となったシーンなので驚きです。
僕としてはあのシーンは完全に人命救助のことだけを考えていたのでセリフは入れなかったのですが、脚本を経たアフレコ台本を読んだらセリフがいっぱい詰まっていて「青山先生と立川譲監督はこう思っていたんだ!」と驚きました。ベルモットとフサエブランドのつながりにおいても、リクエストをいただいて盛り込んだものからより濃密になっていました。
そういった意味では、『黒鉄の魚影』はキャラクターの理解度がさらに深まった作品となりました。自分が書いた脚本と完成版ではキャラクターの掘り下げ方が全く違っていて、6作目にして改めて勉強させていただいた。全作品に忘れがたい思い出があり、全作品が僕にとってはターニングポイントです。
2025.04.11(金)
文=SYO