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「名探偵コナンってこんなに懐が深いんだ」劇場版「名探偵コナン」シリーズおなじみの脚本家が振り返る10年間

 今年もこの季節がやってきた。劇場版「名探偵コナン」の新作『隻眼の残像(フラッシュバック)』が4月18日(金)に劇場公開を迎える。長野県の雪山を舞台にした本作は、毛利小五郎や長野県警(大和敢助・諸伏高明・上原由衣)にスポットが当たり、原作漫画でも描かれたことのない「敢助の過去」に踏み込むなどサービス満点の内容に。

 その脚本を書き上げたのが、シリーズ7作目の参加となる櫻井武晴氏。『相棒』や『科捜研の女』でも知られる彼は、どのようにしてシリーズに関わり、いかにしてヒットの立役者となったのか? 10年以上にも及ぶ足跡を語っていただいた。(つづきを読む:「青山先生がしれっと新しい情報を脚本に入れてくるんですよ」脚本家が語る驚きの制作舞台裏


青山先生から“黒ずくめの組織”のネタバレが?

――櫻井さんは2013年の『絶海の探偵(プライベート・アイ)』で劇場版「名探偵コナン」に初参加され、以降『業火の向日葵』『純黒の悪夢(ナイトメア)』『ゼロの執行人』『緋色の弾丸』『黒鉄の魚影(サブマリン)』を担当されてきました。

 全作品に印象深い思い出があります。初めて劇場版「名探偵コナン」に呼んでいただいた『絶海の探偵』では、ずっと前から書きたいと思っていたイージス艦による機密情報漏洩事件をやってみたいと提案したら何の障害もなくOKをいただけました。

 実写でやったらお金がとんでもなくかかってしまうだろうけれどアニメだったらできるかな、でも「名探偵コナン」はお子様もご覧になるし……と思っていましたから、快諾いただいて逆に「本当に大丈夫ですか?」と聞き返してしまったくらいです。そのときに「名探偵コナンってこんなに懐が深いんだ」と良い意味で驚かされました。

 続く『業火の向日葵』は「怪盗キッドをメインキャラクターにしたい」というオーダーで、じゃあこちらも前からやってみたかったアートミステリーをやろうと書き上げたのですが、脚本完成後にある事情でほぼ全部お蔵入りになってしまったんです。

 「こんなことあるのか」というショックと同時に、ミステリー部分が全部使えなくなったなかで静野孔文監督がアクション映画として作り変えて、しかも当時のシリーズ過去最高の興行成績を記録したという二重の衝撃がありました。プロのわざを目の当たりにしましたね。ちなみに主題歌の「オー!リバル」(ポルノグラフィティ)が様々な主題歌の中で1・2位を争うくらい個人的に好きです。

 『純黒の悪夢』は、原作者の青山剛昌先生に「黒ずくめの組織はこういう組織で、いまこういう状態なんです」という説明をしていただいたうえで脚本を書きました。僕は初めて黒ずくめの組織に挑むことで手いっぱいで必死にメモを取っていてなかなか余裕がなかったのですが、周囲のスタッフが衝撃を受けた顔をしていて! 「自分はいますごく重要なことを聞いているんだ」と痛感しました。

2025.04.11(金)
文=SYO