僕が日本映画を敬遠したのではない、日本映画が僕を遠ざけた
――1990年代の中盤から2000年代にかけて、日本映画の中心には浅野さんがいました。でも40代の時期は、それ以前と比べてあまり主役を演じてきませんでしたよね。なにか理由があったんですか?
浅野 いえ、ないです。単純に話が来なかっただけで。
――本当ですか?
浅野 ええ。やっぱりみんな数字を稼げる俳優を使いたいんだろうし、そもそも40代、50代が主人公の作品が少ないのかもしれません。アメリカなら、僕くらいの年齢がいちばん使われると思うんです。でもそういう作品は、日本だと少ない印象がありますね。
――海外作品への出演が増えるなかで、浅野さんが日本映画を敬遠するようになったのかと思っていました。
浅野 むしろ僕を遠ざけていたのは日本側だったと思いますよ。映画関係者と話すと、みんな「企画ではいつも浅野さんの名前が出るんです」って言うんです。でも結局は声がかからない。よく聞くと、自分が大それた人みたいな扱いを受けているんですね。「浅野さんはお忙しいでしょうから……」って。でもそういうのはやめてください、なんでもやりますからって。
――そういう状況に寂しさを感じたりはしませんでしたか?
浅野 いやもう、寂しいですし、悔しかったです。このままだと自分はやばいんじゃないか、とまで思ってましたから。
――製作者側に自分から積極的に働きかけていくタイプの俳優もいますよね。
浅野 セルフプロデュースがうまい人は、そうやって仕事を広げていけるのかもしれませんけど、僕は苦手なんですよね。そういう関係性が透けて見えると、なんかピュアじゃないなと思って。まして付きあいでお酒を飲み歩いたりもしませんから。

主役での抜擢に「引き出しがいっぱい」だった『レイブンズ』
――『レイブンズ』のマーク・ギル監督は、『殺し屋1』(2001)を観て以来、浅野さんのファンだったと話しています。それが今回の浅野さんの起用につながって。
浅野 そうやって声をかけてもらうのがいちばんありがたいですね。このごろは脇役が多かったので、主役として試したいアプローチがあってもできなかったんです。そうしたらマーク監督が『レイブンズ』の主役に誘ってくれた。だから『レイブンズ』のときには、あんなこともやりたいし、こんなこともやりたいしって、引き出しがいっぱいな状態だったんですよね。
撮影 橋本篤/文藝春秋
〈ミニシアター系でもなく、アート系でもなく……浅野忠信が今まで観た映画で最も好きな作品「よく言えば柔軟だし、言い方を変えればただのミーハーなんです(笑)」〉へ続く

2025.04.09(水)
文=門間雄介