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ナンシーの原稿には改行がひとつもなかった

町山 「見せたい私」が映っていると思い込んでる芸能人たちがいて、こぼれ出てるものを見逃さないナンシーさんがいる。よく「ナンシーさんが悪口を書いてた」って雑なことを言う人がいますけど、全然違う。

 譬えがまた小野ヤスシさんになっちゃうけど(笑)、小野ヤスシさんは「見せたい小野ヤスシ」をテレビで出してるわけで、それを受けてナンシーさんは書くわけです。「こんなふうに見せたいんだろうけど、私にはこう見える」と。「小野ヤスシという人間がこうだ」と言ってるわけじゃない。

いとう 「もしもし、あなたが思うようには見えてませんよ」って、後ろから肩を叩くみたいな感じだよね(笑)。それをめちゃめちゃ熟考し、何回も何回も、それこそ消しゴムをかけて推敲していたわけだから、ナンシーは。最初は鉛筆で原稿用紙に書いていたからね。

 ナンシーが書いたいちばん最初の原稿を取ったのは俺だったわけだけど、「ぱっくんぷれす」っていう『ホットドッグ・プレス』のコラムページでライターとして書いてもらったんですよ。

 読者から送られてきたハガキを選び、面白いやつを引用して、「これは面白かった」というコラムを書いてもらったんだけど、原稿用紙にビッシリ、改行もなく、最後の「。」がいちばん最後のマスに入ってるの。ほんとビッシリ、何度書き直しをしたんだろうって思うほど。

 それもすごくよかったんだけど、さすがに読みにくいから、「ナンシー、改行ってあんじゃん」って(笑)。「改行って、読む人がそこでちょっとひと息入れるためにあったりするから、もう一回書き直してくれない?」って言ったのをよく覚えてる。そのぐらいビッシリ書きたいことがある人だった。頭が熱くなるぐらい考えに考えて考え抜く人だったからね。

「あさ虫温泉フェス ~音楽とトークと湯~」

かつて棟方志功、太宰治が愛した青森・浅虫温泉街の中に、同県出身の消しゴム版画家・ナンシー関の菩提寺があることから企画が生まれたフェス。ライブ、トークイベントのほか、いとうせいこう氏キュレーションによるナンシー関作品の特別展示もあり。5月17日(メイン)、5月18日(後朝祭)の2日間開催。今後、さらに盛り上がる追加情報を発表予定!
https://www.asamushifes.com/

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2025.04.01(火)
文=辛島いづみ
撮影=平松市聖