でもちょっと待ってほしい。なんで人はお金が大好きで大嫌いなんだろう? そもそもお金とはなんだろうか? なぜお金はいるんだろうか? お金はこれからも必要でありつづけるんだろうか? ふと立ち止まって考えてみると、こういった問いへの答えを私たちは持っていないことに気づく。巷のお金本や投資動画は教えてくれないし、学校の政治経済の教科書にも載っていない。だったら素手でそういう問題を考えてみよう。一番答えを知りたい疑問はこれだ。お金なしで生きることはできないだろうか?

 今ここの時事や情勢の話はしない。向こう十年の経済見通しも考えない。株価の予測などもちろんしない。わからないし興味がないからだ。むしろ、向こう数十年から百年くらいの未来を考える。お金や市場経済の仕組みはどう変化していくだろうか? 要は資本主義はどこにいくのだろうか? 国家vs.市場、政治vs.経済の役割分担は? 22世紀ごろに向けて資本主義が、市場経済が、そしてお金がどうなっていくかの予想(のふりした妄想)だ。社会は、人間は、世界はどこにいくのか知るための準備運動でもある。

 投資でいくら儲けたとか資産がいくらになったとか生ぬるいことを言ってる連中は滅びてほしい。そういうものが全部燃え尽きるような、本当の資本主義の話をしよう。

 最後に、この本が目指すのは突飛なSFではない。むしろ堅実な予測を目指す。脳内で生まれたばかりの夢を掬おうとする生卵のように繊細なSFではない。かといって、今ここで事業化できるほど固まったゆで卵でもない。その間の半熟卵を目指す。半熟卵にははっきりした境界がなく、始まりも終わりもあいまいだ。好きなところで読みはじめて好きなところで読み終わってほしい。ランダムに開いたいくつかのページだけつまみ食いするのもいい。22世紀までには食べ終わることだろう。


第1章 暴走 すべてが資本主義になる

「『お金で幸せは買えない』と言う人はどこで買えるか知らないだけだ」

──作家・詩人ガートルード・スタイン(1874年-1946年)

 すべてが資本主義になる。あるいは、すべてが市場経済の契約になり、商品になり、取引になる。私はそう思う。なんだ、いきなり市場原理主義者の妄言かとうんざりされるかもしれない。そうだ。死人がゴロゴロ出るような、悪夢と現実の区別もつかなくなるような、徹底した資本主義と市場経済だ。

2025.03.22(土)