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私が思っていたよりずいぶん長く、私たちは友達でいた。ーーまだ何者でもなかった「私」は、あるとき唯一無二の写真を撮る彼女と出会い、魔法のように美しい時間をともに過ごします。今、喪失感とともに思い出す、特別な「魔女」とのエピソード。
スマートフォンの写真フォルダを少しさかのぼれば、彼女が撮ってくれた私の写真が、まだ手触りのある記憶とともに画面の中にあらわれる。これはシーシャに行ったときの、これは彼女の家で撮ったポートレート、これはスタジオで撮ったセミヌード、これは、お昼にどこかのカフェでサンドイッチを食べたときの、彼女の楽しそうな笑い声が入った短いムービー。私たちが終わってしまってから、まだあまり時間は経っていない。お互いに忙しくしていれば、これくらいの期間会わないことだって、きっと普通にあっただろう。ただ、今までと違うのは、私たちがもうにどと連絡を取らないということ。それから、今私が見ている写真すら、きっと彼女はすべて消去してしまっているだろうということだ。知り合ってから数年間、彼女の周りでは彼女と喧嘩をした誰かが、ときどきひっそりといなくなった。そんな光景に無関心なふりをしながら「いつかは私の番が回ってくるのだろうな」と、私は頭の隅ではなんとなく覚悟をしていた。そうやって、私が思っていたよりずいぶん長く、私たちは友達でいた。私はたぶん、ずっとあなたが怖かった。
都内の大学に入学して、私は少しずつモデル活動をするようになった。いちばん最初はたしか、中学生の頃に地元で私の髪を切ってくれていた美容師と、どこかのレストランで偶然隣り合ったのがきっかけだったと思う。今は表参道の一流店で働いているという彼に、後日SNSを通してカットモデルを頼まれた。はじめて自分の容姿が認められたような気がして、胸を躍らせながらその美容室に行った。縮毛矯正で伸ばした長い髪をプロに綺麗に巻いてもらい、明るい店内で見よう見まねのポーズをとる。きっといつもより何倍も美しい自分が映っているに違いないと、期待しながら一眼レフのモニターを覗かせてもらうと、そこには確かに、いつもと違う自分が映っていた。でも、べつに期待していたほど美しい自分がそこにいたというわけでもなく、むしろ、得意げに上げた腕はどこか不自然だったし、表情もなんだか素人くさくて、メイクも白浮きしている。おまけに鏡で見るより顔は大きく膨れ上がっているように見えて、私は周りで「きれい!」とか「かわいい~」とか言っている大人たちにできるだけ表情を合わせて同意しつつ、心の中では、画面の中の自分に「なんだ、こんなもんか」と、客観的に見た自分の姿に静かに絶望した。それからは同じガールズバーで働いていた服飾の専門学生の衣装モデルをしたり、知り合ったお客さんが作っている雑誌で数ページにわたってモデルをさせてもらったこともあったりしたが、できあがった写真に映っている私の姿は、やはりいずれも私の期待を大きく下回っていた。そうか、みんな無理矢理褒めてくれているんだなと感じて、ひとりで勝手に落ち込んでは、また淡い期待を抱いてポートレートの依頼を受け続けていた。
2025.03.04(火)
文=伊藤亜和
イラスト=丹野杏香