この記事の連載

 CREA WEBでは「猫」特集が今年も好評公開中です。今回は、猫に負けず劣らず愛らしい動物の親子に会いに、多摩動物公園にお邪魔しました。前後篇あわせて46枚の撮り下ろし写真とともに、ぜひお楽しみください。

 2024年、東京都多摩動物公園では新しい命がさまざまに誕生しました。4月生まれのアムールトラ・フタバ(オス)、9月生まれのインドサイ・デコポン(メス)です。同年7月には、アジアスイギュウのさち(メス)も誕生し、3頭ともにすくすくと成長しています。

 CREA WEBでは12月下旬、多摩動物公園へ伺い、アムールトラ、インドサイ、アジアスイギュウの親子を取材しました。後篇では、インドサイとアジアスイギュウの親子についてレポートします。

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50年ぶりのインドサイの誕生

 インドサイの誕生は多摩動物公園にとって1973年以来、50年ぶりのこと。このことからも繁殖の難しさがよくわかります。

 2頭の繁殖は同園と神奈川県横浜市立金沢動物園で行われている共同の繁殖計画によるもので、お母さんの「ゴポン」はアメリカのサンディエゴ動物園で生まれ、移動した金沢動物園から来園。お父さんの「ビクラム」は2001年にネパールで保護されたのちに飼育され、来園した個体。小さいころ、トラに襲われた傷が今も残っているそうです。

 前篇に引き続き、飼育展示課の井上邦雄さんに、親子についてのお話を伺いました。

「繁殖は最初から最後まで全て大変でした。というのは、ゴポンとビクラムの相性がいいかどうかは、会わせてみるまでわからないからです。相性が悪い場合、発情期の同居で闘争になる心配もありますし、発情期に同居できたとしても、それが確実に繁殖行動につながるかはわかりません」

 「慎重に計画を立てて発情時の同居の回数を重ねる中、出産経験のあるゴポンのリードもあって、繁殖経験のないビクラムも同居に少しずつ慣れていきました。さらに繁殖行動も出てきて、1年目の最後にマウント行動が。そのときは交尾にまでいたりませんでしたし、発情期の同居のタイミングを工夫した2年目も進展しませんでした。そこから、ゴポンの発情のタイミングで、ゴポンが普段出ている運動場へビクラムを入れて匂いで繁殖行動を促したところ、ようやく交尾にいたりました」

 繁殖行動にいたるまでの難しさもさることながら、460~496日というインドサイの長い妊娠期間にも驚きます。

「日々の健康をチェックするトレーニングを通して飼育係との信頼関係を築いて、ゴポンの各部位を観察できるようにしていました。妊娠初期は体形にあまり変化がないので、妊娠しているかの判断が難しかったですね。ただ、妊娠すると採食量が増加し、糞量も増えるので、その変化を観察しながら妊娠継続のケアを続けました。夏が暑かったこともあって、発情が来ていないのでは? という懸念もありましたが、最終的に岐阜大学等との共同研究で糞中の性ホルモン値を測定したほか、一定期間、発情が来なかったことによって妊娠が確実になりました」

 インドサイは国内で4園7頭しか見られない貴重な動物。アムールトラ同様、絶滅危惧種です。野生ではスポーツ・ハンティングや密猟によって、一時期、数百頭まで減少したものの、現在は現地での地道な保護活動が実を結んで回復傾向にあるそうですが、開発などによって生息地がなくなるという環境問題にも直面しています。

2025.02.16(日)
文=高本亜紀
写真=松本輝一