この記事の連載

 間近に迫ったバレンタイン。ショコラティエたちが生み出した渾身のひと粒は、今しか手に入れられないものばかりです。

 オリジナリティにあふれ、繊細なテクニックと上質な素材を使ったチョコレート。ここではスイーツライターのchicoさんに注目のチョコレートについて紹介してもらいました。


カカオ感と食べやすさを両立する、ハイカカオなボンボンショコラ

 シェフ ショコラティエ・市川幸雄さんが手がけるボンボンショコラは、驚くほど緻密で繊細。素材選びから配合、味の組み合わせやそのバランス、サイズ……全てを細部まで計算して一粒のショコラに仕立てます。手作業で仕上げる職人気質なショコラは、温もりと味わい深さに満ちています。

 「ケーキと違い、ひと口で食べ終わってしまうからこそ、味の変化や余韻を楽しんでいただきたい」と市川シェフ。一口の中にドラマチックに味わいを潜ませます。

 今年のバレンタインのテーマは「ハイカカオチョコレート」。豊かなカカオ香でチョコレート好きたちを惹きつけるハイカカオチョコレートですが、反面、苦味が食べにくいと感じる人が多いのもまた事実。

 「香り高く、カカオポリフェノールもたっぷりのハイカカオチョコレートをもっと食べやすく、おいしくしたい」。そんな市川シェフの思いから、カカオ分70%以上のチョコレートを使った8種の新作ボンボンショコラが生まれました。

 どれも2層仕立てになっていて、下層は全てハイカカオレートをブレンドしたチョコレートガナッシュ。

 「ハイカカオチョコレートのほか複数のチョコレートをブレンドすることで、カカオ感を出しつつ苦すぎないようにしています」。そうすることで食べ慣れていない人にも食べやすいうえ、味わいの奥行きもグッと深まるよう。

 上層は下層のガナッシュの風味を活かす、フルーツやナッツなどさまざまな食材のガナッシュやプラリネ。組み合わせの妙が、カカオの知られざる魅力を引き出してくれます。

 たとえば「パッションフルーツ」なら、ハイカカオチョコレートをブレンドしたビターチョコレートガナッシュと、パッションフルーツの酸味を効かせたミルクチョコレートガナッシュが層に。ミルクチョコと一緒に食べると、ひと際カカオの存在感を感じられるから不思議です。

 とりわけ印象的だったのは「ビターバニラ※」。同じくハイカカオチョコレートをブレンドしたガナッシュ層に、バニラ香るビターチョコガナッシュが重なりますが、このバニラが特別。マダガスカル産バニラビーンズなのですが、10年間熟成させたものを使っているのです。バニラの甘さ、芳醇さに色気すら纏うような、魅惑の香りに満たされます。
※「ビターバニラ」にはバニラ香料を使用。

 涙型の「チェリー」は、ハイカカオチョコをブレンドしたグリオットチェリー風味のビターチョコガナッシュと、チェリーのコンフィチュールの2層。舌に溶かすとカカオの濃密さからチェリーの鮮やかな果実味へ、味わいのグラデーションが見事です。

 チェリーのコンフィチュールには甘酸っぱいグリオットチェリーをベースに、独特の奥深い香りを持つアマレナチェリーの砂糖漬けも刻み混ぜていて、そのひとくせも惹かれます。

 さらに底部分を覆うチョコはカカオパルプ(果肉部分)を使ったビターチョコで、さりげない華やかな酸味の余韻を残していきます。こういう細やかな仕掛けは手仕事ならではであり、市川シェフならではというところ。

 カカオを存分に味わえながらも、食べ慣れていない人もみんなにおいしい。ハイカカオチョコレートの新しい世界が広がります。

2025.02.11(火)
文=chico