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取材班はお父さんの「ビクラム」にくぎ付け

 待っている間、右手の放飼場の奥で寝ていたお父さんの「ビクラム」に動きが!

 ゆっくりと体を起こすと、来場者の近くにあるプールまで進み、水の中に入って顔まで浸けます。インドサイが水の中に入るのは外敵から身を守るため、または体温の上昇を防ぐためらしいのですが、浸かること数分。水に入ることは知っていましたが、こんなにも長い時間入ったままでいられることに感心します。

 ビクラムの優雅な水浴を見ながら「耳は出たままですね」「本当だ。つけないんですかね?」などと取材班で話し合っていると、さらに深いところまで進み、耳まで浸かります。そして時々、顔を上げて、来園者のほうへ顔を向けて観察している様子も見られました。

 その後、ビクラムはプールから出ると、右の奥に進んで泥浴びへ。ねっとりとした泥の中に、何度も顔や体をつけます。これは皮膚の乾燥や体温の上昇を防ぐために行う行為だそう。動物の行動一つひとつに興味をもって観察し、事前に得た知識と照らし合わせて確認するのは楽しいものです。

 放飼場の近くには個体の紹介、クロサイやシロサイとの比較をする掲示物も。初めてじっくりと見たインドサイの大きさに驚いたのですが、その展示によるとサイの中で一番大きい種だそう。納得です。

 泥浴びをしたあと、ビクラムは優雅なランチタイムへ。乾草や木の枝をゆっくりと口に運んでしっかりと咀嚼すると、再びプールへ向かいました。

 年末の慌ただしい時期。時間に追われる日々を過ごしていましたが、寝て、水浴して、食事する……生きることに忠実なその様子を見ていると、心が穏やかになりました。

いよいよ、デコポン登場!

 静かに登場を待っていると、園内に響く12時の鐘とほぼ同じ時間に、親子が放飼場へ顔を出しました! お母さんのゴポンが右側に置かれた乾草のほうへ向かうと、静かに食事を始めます。その周りを元気に歩き回るデコポン。小さくてもしっかりした足取りです。

 甲冑のようなフォルムをしているインドサイ。生まれたばかりのデコポンの写真を見ると、小さいだけで大人と同じ姿。一見、硬そうに見えますが、「そうではない」と井上さんは話します。

「親の皮膚は、分厚い皮という表現が近いですね。デポコンが生まれた頃は柔らかい革ジャンの皮のような感触でしたが、だんだんと硬さが出てきて、親の皮膚に近くなってきています」

 乾草や瑞々しい木の枝を食べ続けるゴポン。デコポンはお母さんの様子をじっと見ながら同じように口に運んでみます。が、口からポイッと出して、再び歩き始めました。

 その後は泥浴びをするように穴へ顔を突っ込んだり、再びお母さんの近くまで行ったりと、とにかく好奇心旺盛。ゴポンが食べ終えたタイミングで、2頭一緒に室内へと戻っていきました。

「母乳は生まれてから1年以上、飲むようです。しかし、生後1ヵ月あたりから母親が食べている物も口にし始め、今では母親、大人とほぼ同じ物を食べています」

 後篇では、ゴポンとビクラムの繁殖の様子とアジアスイギュウの親子についてレポートします。

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2025.02.16(日)
文=高本亜紀
写真=松本輝一