数値に落とし込んだ酒造りのデータがぎっしり詰まったパソコンは、自分たちらしく酒を醸すための重要な手掛かり
実家に戻った裕二郎さんは、福島県で地元杜氏を育成する機関「清酒アカデミー職業能力開発校」に入学。座学や醸造実習、さまざまな酒蔵の見学、1日300点という利酒の実習など3年間のカリキュラムを通して酒造りのノウハウを学びました。
「体験蔵は私たちにとってはラボ。清酒アカデミーで学びながら、小さな仕込みができるこの体験蔵で1年に10数本~30数本とたくさんの仕込みをして酒を造り、これまで当然のこととして行われてきた酒造りのさまざまな工程の数値をデータ化して分析していきました。杜氏の感覚をデータに落とし込めたことはとても重要なことだと思います。
時間が経ち自分たちでも米を握る、食べてみるという実際の感覚を経験してみると、おいしい酒を造るときに大事なのはそっちなんだなということがわかって面白いと思いました。経験と感覚、それを裏付けるデータ、この3つはとても重要」(裕二郎さん)
理数脳でデータを分析、理解しながら酒造りの感覚も身につけていった理系ブラザーズ。「陣屋」が、2022年、2023年と連続で「全国新酒鑑評会」で金賞を受賞しました。キレが良く、後味もスッキリ、純米らしい米の旨みを感じながら吟醸香がほのかに香るここちよさ。定番商品の「陣屋」特別純米は、「陣屋」の中でもっとも食中酒向きの酒と言われます。
「目指すのは単体でももちろんおいしいけれど、料理と相性のいい、料理と楽しむことでさらにおいしくなる、お互いを引き立て合うようなお酒です」(裕二郎さん)
会社設立100周年の後、これからの100年で目指すものは?
「100年続けてこられたのは毎年毎年の積み重ねがあったからこそ。そして、それは周囲の田んぼ、阿武隈川や那須山の伏流水といった豊かな水や森など、この土地の環境があったからこそできたことだと思うので、その環境を守る取り組みは必ずしていきたいと思っています。それを最大限に活かしたお酒=地域の特性を活かした酒造りこそが目指すべきものだと。
今年から酒造好適米(酒米)は、福島県で開発されこの土地で育つ夢の香と福乃香をメインに使用したオール福島のお酒を醸します。
また、お米以外の福島の特産品、例えばフルーツなどを副原料的に使用したどぶろくなんかも造ってみたいですね」(裕二郎さん)
2011年の東日本大震災の後にも、2019年には記録的な大雨で甚大な被害をもたらした台風19号、2021年、2022年にも起こった震度5強の地震、その他風評被害にも苦しみ、さらにコロナ禍と蔵のダメージの大きさは計り知れません。
自分たちにできることから、自分たちらしいやり方で着実に歩みを進めてきた有賀醸造。1年を通して酒造りが可能になる新しい蔵の建設は、100年先も楽しみな大きな一歩になり、新蔵の完成に伴い再開される体験蔵での酒造りは、待ち望んでいた多くの人にとって朗報です。
理系の頭脳と父親譲りの妥協を許さない探究心で有賀醸造の可能性と醸造の世界を広げ、新しい時代を駆け抜ける理系ブラザーズの活躍に乞うご期待。
有賀醸造
所在地 福島県白河市東釜子字本町96番地
電話番号 0248-34-2323
定休日 不定休
営業時間 9:00~17:00
https://arinokawa.net/
2025.01.25(土)
文=齊藤素子
写真=志水隆