この記事の連載
おまけのデザートで、小休止
小菓子をゆっくり堪能し、メインのデザートを待つ合間には、うれしい「おまけ」も。この日は、山椒のムースと、ユズとカカオ出汁のグラニテ。仕上げに、山椒を蒸留したフレグランスウォーターをふりかけ、カカオのチュイールをのせて供されます。ユズの香りがさわやかで、和歌山県産ぶどう山椒が、まるでグレープフルーツのようにフルーティ。
創造性光るメインのデザート
旬の食材を使ったメインの皿盛りデザートは、「日本の山とカカオの共存」がテーマです。「温暖化が進んでもしも日本が熱帯になったら、カカオと共存する未来もあるのではないか」という、眞砂シェフの発想から生まれたそう。
杉のエキスを加えた水とカカオハスクを煮出したクリームのようなムースに、カカオハスクの出汁で8時間ほど煮込んだ温かい和歌山県産みかんをのせて、30~40度の熱帯の温度を表現。まわりには、マカンボ(カカオの親戚とも呼ばれる白い種子)の豆腐、カシスを加えたチーズケーキ、カカオ出汁のゼリー、カカオ豆を模したコスタリカ産チョコレートのガナッシュが散りばめられています。そして上には、カカオパルプのアイスクリームをのせ、みかんを煮た汁のあんかけをとろりと。
そして、ペーストにしてから焼いて焦がしたバナナをふりかけ、柚香や柚子、お茶などの葉を漬けたオイルを回しかけて、最後に“できたてチョコレート”をそっと手でまとめてあしらいます。このチョコレートは、先ほど各自がローストしたカカオ豆の残りを集め、眞砂シェフがすり鉢ですってハチミツを加えて、まだ粗いながらもざっとチョコレートのように仕上げたもの。
「実際にチョコレートを製品化する際には、コンチング(練ってなめらかにする作業)という工程を踏みますが、それによって失われてしまうカカオの香りがあります。その香りをぜひ、失われる前の“できたてチョコレート”で楽しんでいただければ」と、眞砂シェフ。
ひと口ごとに感じられるのは、チョコレートを味わうだけでは分からない、カカオのフルーティさや香り、酸味、ローストによって生まれる香ばしさ、奥深さ、旨み。驚きや楽しさにあふれ、繊細な香りや味わいのハーモニーに心が満たされていきます。
2025.01.21(火)
文=瀬戸理恵子
写真=鈴木七絵